道化師の挽歌

ピエロ


私が不気味だと?
そんな事は無い。

そう、ピエロは呟いた。

静寂の中でさえ、誰にも聞こえもしない様な、か細い声で、そう、呟いた。
今となっては、もう、涙も出ない様だ。

ーそして、悲劇は、朝を迎えるのだ。

苦しくて、苦しくて、劣等感しか無くて、それでも、その生き方しか分からないモノにとって、それをも、否定されたり、罵倒されようものならば、悲しみや、虚無感が芽生える。
ありがちな物語にはなるが、それは、やがて、無選別に放たれる憎悪となり、異常が正常へと、変わり果てる。

その"正常"な感覚の持ち主。
つまりは、ピエロ。
そのピエロが現れた日は、人が死ぬ。

都市伝説ではなく、こうして、目の前に惨殺された遺体が、投げられている。生々しいのに、リアリティのかけらも無い。

頭蓋骨は鈍器で殴られたのであろう。
後頭部が陥没するほどの、力で殴られている。

首も切られ、挙句の果てには、腹部に弾痕が一箇所、性器は切り取られて、潰されている。

何故、これ程までに残酷なことができるのか、そして、それは、何の為に、どうして行われているのか。

異常者の考える事は、何もわからない。
ただ、分かるのは、いつだって、其処にピエロがいる事。それだけなのだ。

ケイジ


勿論、世間では、騒がれない訳もなく。
子供から大人にまで認知されている。

ニュースでは、顔を見ない日など無い。
顔とは言っても、涙化粧なので、素顔は分からない。

気のふれた馬鹿だとか、薬物でも使っているのではないかとか、果ては人では無いのではないかとか、言いたい放題だ。

そんな事も、知ってか、知らずか、今日も、また、ピエロが現れた。

確かにいる。
昼も夜も、お構いなく。
あいつはやってくる。
そして、何の躊躇も無く。
確実に、命を絶つ。
絶命させた後に、わざわざ、遺体を傷つけるのは、あいつの趣味なのではないかと、それくらいしか、思い付きもしない。
だとすれば、相当な悪趣味で、何より、"異常"だ。

前の事件は東京。
今度は京都。
金持ちか。と、羨ましくも感じてしまう。
命を張って、市民を守っているのに、給料なんて、特別高い訳でもないというのに、だ。

人としての許容範囲を、遥かに超えた所業。
そして、刑事としても、それは、許せる事態では無いのに、何を考えているのか、全くもって、異常事態だ。

ガクセイ


いつの時代の都市伝説かは知らないけど、そのピエロ は、不気味で、カッコいい。

凄い昔の本当にあった出来事なんだって。
でも、実際に見た訳でも、聞いた訳でも無いから、信じてもいないけどね。

そう言って、話しているのは学生達。

何故、実際にあった出来事だと言うのに、信じないのか。

強いて言えば、カッコいいなどと言う、ピエロが"泣いて"喜びそうな誉め言葉が、一つ加わった事くらいだろう。

セイジャ

体と心を清く保ち、全ての命に、平等に穏やかに接し、世界の平和を願う。
さまざまな宗教的思想の根源では無いかと思う。

そんな、善人とも呼べる聖者が、殺された。惨殺だったようだ。

肋骨に軽くヒビが入る程の力で骨と骨の間を擦り抜けて背中側から心臓に向かって、包丁が突き立てられ、散乱し血塗れの一万円札の中に埋もれて、口は塞がれていて、顔面だけが焼けただれ、眼は見開いたままだ。
そして、腰から下、ほぼ全てが、粉砕骨折。

これが、善良なる市民が受ける仕打ちなのか。

また、あいつに違いない。
こんなことが出来るのは、この世に2人と要らない。
昨夜、目撃されたピエロだろう。
証拠など何も無いに等しい。
指紋もない、毛髪も無い、足跡なども無い。
何も、此処には無い。
姿だけは、いつも、目撃される。
それなのに、証拠と言う証拠は何も無い。
もはや、バケモノとしか、言いようがない。
明日は、自分の番が来るのではないかと、戦慄だけが積もっていく。

ハンザイシャ

人間が決めたルールを破った人の事。
そのレッテルを貼られたら、生きていても死んでいても、大して代わり映えのない灰色の時間を手に入れる。

それは、例えば、大切な人の仇でも、それさえあれば助かる極貧生活を送るホームレスの万引きでも、そうだ。

犯罪者は、すべからく、平等にゴミだ。

否。

ピエロが現れた。
殺された。

生身のまま窯にぶち込まれて、焼却された。

死んだ。

仇を取った両腕と溢れ出した大量の血をばら撒いて。

死んだ。

終わりははじまりだ。

ピエロは恐ろしい。
そして、ピエロの挽歌を聴いた。
あぁ、死ぬのだな。と…。

道化師

こんばんは。
私が猟奇殺人者、世界の仇。
社会のゴミクズ。
人外の道化師だ。

涙化粧の意味は、葬り去った命への、弔いなんだ。
次は、君の番かもしれないね。

目には見えない歴史の中に
嘘が、確実に存在している。

君たちにとって、嘘か幻であってほしいものワーストワンだろう?

先日、逝ってもらった人は、やけに叫ぶから困ったよ。

だけどね、私を止めることなど、誰にもできるはずがない。

何故か。
簡単な事だよ。
平たく言うとすれば、私は、この地球のオーナーだから、何をしようとも邪魔だてする奴はいない。

以上だ。

さぁ、さっさと私の前から失せろ。

あぁそうだ。

お前…と呼び、振り向きざまに顔を粉砕してやった。

私は救世主ではない。
お前がやったことは、許されざることだ。
だけどね、私には解る。
お前の、その気持ちは、抑圧せねばならない。
この世界にピエロは2人要らない。

光⇄闇


なぁ…聞こえるかお前は何をしている。正義の味方でも、悪でもない。ただの人殺しが。何をしている。生きている価値など無いその容姿が。目が。お前に心など無いだろう。母さん、すまないね。産んでくれて、ありがとう。私が守りたいモノは私が守る。世界の常識こそが正義だと言うのなら私は悪になろう。世界の光だけが希望だと言うなら私は、その光を拒絶しよう。俗世間のどうでも良い闇を私が暴く事なく。潰してやる。なぁ。親父。私にとって、あなたは、闇そのものだ。そして、母さん、あなたは、いつだって光だった。母さんにとっての大切なパートナーを殺す事は出来ないから、あなたが嫌う私を、あなたの光を奪い去る事で補完しよう。ありがとう。そして、さようなら。

銃声


鈍く鋭い音が響く。
四肢には、四つの弾痕。
おびただしい量の赤い血。
まだ息がある。
とどめはいれない。
私は苦しんで死なねばならない。
此の手で、此の頭で、私は幾人もの命を貪り取ったのだから、それが、例え、誰かに取って悪でも、それが、たとえ、規律を破ったものでも、そうだ。

本来ならば、私は、死ぬ事さえ許されないだろう。

疲れてしまった。
だから、さようなら。
無様だなと、涙化粧で微笑んで、天を仰ぐ。



歪み歪んで、辿り着く答えも無く。
ピエロが守りたかったものは
一体なんであったのか。
ルールや
世間体や権力
地位や名誉
お金。

私達が創り出した付加価値の中で
私達は踊らされ
私達の価値観なんて
所詮は誰かの価値観の範疇でしかなくて
でも、そんなことでは無くて
自分の正義を貫いた異常者は
命を散らした。

水面下で蠢く悪意を
その手で根絶やしにするよりも
遥かに早く。散った。

私が居なくなった世界は
どうしようもない犯罪で溢れ返ったようだ。

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