ネゴシエーター〜学内トラブル交渉人 エピローグ それぞれの居場所へ
外山照彦(とやま てるひこ)のマフラーが風に舞い、輝咲勇作(きざき ゆうさく)の足元に着地した。
当の本人、照彦は描くことに夢中で気に留めない。照彦の母親が立ち上がり、勇作からマフラーを受け取る。
勇作は照彦の母親にマフラーを渡すと踵を返し歩み始めた。今日は道玄坂の事務所まで歩きたい気持ちだった。
柔らかな土の上を離れ、アスファルトの道路に出た。数え切れないほど多くの人と交わる。この雑踏の中、勇作は静かだと感じた。ようやく周囲の雑音に振り回されずブレることのない確かな道を歩み始めたのだった。
桜の花びらがいくつも舞い、勇作のコートに止まる。その何枚かを剥がしていると、スマートフォンが鳴った。
「警視庁にいた輝咲勇作君か?」
いかにも役人っぽい、ハッキリした口調が聞こえた。
「そうです。」
と勇作は返事をするがその間も花びらが気になって仕方ない。1枚1枚、確認しながら剥がす。
「こちらは外務省の晴山だ。今から迎えに行くので横浜の倉庫に来てほしい。学校帰りの子供たちが外国船の中で人質になっている。」
と、勇作が協力することが当然のような依頼が届いた。勇作は、権力に物を言わせるその態度、変わらないなぁと感じた。
花びらを探すのは一旦やめて、空を見上げた。薄い青に桜の木の枝が映るその光景は、心の棘を丸くした。そしてスマートフォンに目を戻す。
「僕は今は役人ではありません。学内トラブル交渉人なので、お力になれず申し訳ありません。」
それ以上は何も言わずに切った。
ポケットにスマートフォンを戻そうとするとまたバイブが鳴る。しつこいと思いながら出てみると、今度は少女の声だった。
「ネゴシエーターの輝咲さんですか?
親が医者でなければ医者になれませんか?親がフランス人だと日本人と話してはいけないのですか?」
片言の日本語で彼女は言う。勇作は桜の花びらを1つ握って歩きながら答えた。
「渋谷、道玄坂のオフィスに来てよ。いつでも待っているから。」
勇作はいつもの様に相手に寄り添う声で返した。
少女は、
「ありがとう。」
と言って電話を切った。
……………
勇作はまた進む。依頼人、各々が活躍出来る場所へ届けるために。
暴力でも、お金でも、権力でもなく、言葉で伝えながら。それがネゴシエーター輝咲勇作の道なのだから。
(ネゴシエーター〜学内トラブル交渉人 全話終了)
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