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生死を一番に伝えたのは家族ではなく、ゲストハウスだった


2011年3月11日午後


当時宮城県の沿岸部で働いていた私はこの世のものとは思えない揺れを経験し、なにが起こっているのかわからないまま、着の身着のまま建物の外へと避難した。

上半身は仕事着である薄いシャツとエプロンしか身に着けておらず、小雪が舞い散る中ガクガク震えていたことを覚えている。

誘導に従いとりあえず避難したのは近くにある高校の体育館。

職場の近くではあったものの当時私は電車を乗り継ぎながら通っており、土地勘はまったくなく、近くに友人は誰ひとりとしていなかった。

もともと充電が少なかった携帯電話は周囲から殺到した安否確認の連絡によりすでに落ちかけている。大混乱の中当然のごとくどこにもつながらず、メールさえアクセスできない。とにかく誰かに自分の無事を知らせないと、と感じた。


避難所から少し歩いた先に市役所があり、そこに電話ボックスがあると情報を仕入れ、向かうとそこにはすでに長蛇の行列ができていた。

私も人の列に並び、どんよりとしたグレーの空の下、寒さと不安の中ただただじっと自分の順番が来るのを待つ。


やっと自分の番になり、「電話ボックスなんてひさしぶりだな・・・」とそぐわないことを思いながら、ドアを開き、10円玉を何枚か入れ、とりあえず一番心配しているであろう母の携帯番号を押した。


・・・やっぱりと思ったが、当然のごとくつながらない。


そういえば非常時は固定電話の方がつながりやすいのではなかったか?

そう思い出し次に県内の実家の電話番号を押したが、無情にもつながることはなかった。

後ろにもまだ電話待ちの列は続いている。あまり私ひとりで時間をかけてはいけない。おそらく次が最後のチャンスであろうと思った。

どこなら、どこならつながるの?固定電話でなるべく遠いところ・・・


そのとき、思いついたのが沖縄のゲストハウスであった。


2年前からドはまりしているゲストハウス。

一度訪れてからは南国の暖かさ、おおらかさ、ゲストハウスという場所での偶然の出会いにすっかり魅了され、一年に2、3度は通い、そのたびにいられるだけ滞在をしていた。もはや沖縄へのチケット代を稼ぐために働いているのではないかと思ったほど。現地で友人もたくさんでき、もはや「ただいま」といえる場所となっていた。

皮肉にもちょうどあさってから宿泊の予約を入れており、こんな事態に陥るまでは間近にせまったフライトに向けて浮足だっていたのだ。


握りしめた携帯電話のアドレス帳から呼び出し、受話器を手に取ってダメ元で098から始まる番号を押す。


「はい!ゲストハウスです!!」


・・・つながった。


いつもと同じ、元気にあふれた男性スタッフの声。

しかもこの声はもはやプライベートでも仲の良い、気心知れた友人。

私は無意識に気が張りつめていたのかもしれない。安心から一気に気が緩み、涙声になってしまった。

「・・ゆきちゃん・・・?あやですけど・・・・」

涙があふれ、それ以降言葉にならない。


「!!あや!?大丈夫なの!?生きてるの!?

ちょっとみんな!!あや無事だって!!!」


背後に呼びかける声。沸き起こる歓声が電話口から聞こえた。


その友人との短い会話から、こっちは想像以上にとんでもないことになっていることを知った。私はまさに今現地にいるのに。

そして、遠く離れた沖縄のゲストハウスで、東北に住んでいる私のことをみんなで心配してくれていたことも。


安心から崩れ落ちそうになるのをこらえ、当時SNSの主流であったmixiで、私が無事であること、携帯の充電が難しいため直接の連絡は控えてほしいことを拡散してほしいと手短に伝えた。

スタッフの彼は快く承知してくれた。


ただ、自分が無事であることを伝えることがこんなに大変で、こんなに安心するなんて。


その後数日を避難所の体育館で過ごし、離れて暮らす家族の安否確認がようやくとれた。電話口の母は泣いていた。


未曾有の大震災。友人何人かは犠牲になり、石巻市にあった祖母の家は津波によって流されてしまったが、幸い身内は全員無事であった。

あのとき沖縄のゲストハウスに連絡ができなかったら。私はひとりでどれだけの不安を抱えたままでいたのだろう。


ちなみに私の安否を一番に伝えたスタッフの彼はその後ゲストハウスを卒業し、新天地でなんと私と一緒に働くことになったりするのであるからおもしろい。もはや親友といっても過言ではない。命尽きるまで、一生の付き合いになるのだろうと確信している。

もちろんその宿には年に一度は必ず訪れている。今も。

私のゲストハウス好きは変わらず続いていく。感謝をこめて。




駄文お読みいただきありがとうございました。

上記ノンフィクションですが、宿名を伏せました。隠すつもりももったいぶるつもりもなく、聞かれたときに直接伝えたいとの思いからです。

ゲストハウス好きなあなたと、どうかご縁がありますように。

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