コミュニティの意義を「価値共創」の視点から考えてみる[1]:前提 - 認知の限界性
※このブログは、コミュニティマーケティングAdvent Calender 2023 の12/15分のエントリーです。
はじめに:私自身の関心の変化
2016年からCMC_Meetupの運営メンバーとして、ずいぶん長い間、コミュニティマーケティングの浸透に運営として関わってきました。実際私は自社のコミュニティを持っているわけではないので、コミュニティ実践者ではありません。でも、もともとゼロイチをする人達の横で参謀的に物事を進める段取りをしたり、リスクマネジメントしたりというところが性に合っているし、マーケティングもマーケティングに携わる人も大好きだし…とまぁ、やりたいからやっている、それに尽きる感じです。
真剣にコミュニティマーケティング活動に取り組んでいる当事者の方々を外の目から見て概念化・体系化することは、私自身興味が高く自分の知見とも融合できるテーマで、最近自分が強い熱量をもっているテーマでもあります。自分の何かが貢献できそうな限り、あともう役割がないよという状態にならない限りはやり続けたいなと思っているのと、熱量をちゃんとアウトプットしないといけないなーと考えてます。
CMC_Meetupの運営に携わること約7年。その間に私の立場も変わり、イベントプラットフォームのスタートアップ経営から離れ、MOT / MBAでの学びや研究を経て、自分のビジネスに対する関心もちょっとずつ軸足が変わってきました。
主にIT企業のBtoBマーケティングが主戦場で関心の中心だったのが、経営に広がり、MOTにいた時にふと気づいたのが、「”日本にもっとスタートアップを”もそうだけど、日本に9割以上いる中小企業が少しずつでもイノベーションを起こせれば、日本の経済ってまだまだ希望あるんじゃないの?」ということでした。
そのあたりから日本の伝統的中小企業やレガシー企業のイノベーションへの興味が強くなりました。実際お客さまや経営者の方々とも、その源泉となる価値共創の議論が増えるようになりました。ほんと面白いんですよね。特にオーナー企業だったりすると。創業者が過去何かしら新しい製品を世の中に送り出していて、その行動やマインドに敬意を持ちつつ、次世代にバトンを受け継がないといけない / あるいは既に受け継いでいる今、価値に対する考え方自体を変革していく必要性があるというところから会話がはじまります。
こんな議論を続けていた結果、ずっと携わり続けているコミュニティマーケティングについても、これはまさに価値共創の場だよねと、さらに強い愛着を覚えるようになったのです。
そういう視点でここ最近はコミュニティというものを見続けています。特に、伝統的中小企業やレガシー企業とコミュニティ(コミュニティという名前じゃなくても良いんだけど)については、むちゃくちゃ可能性を感じています。
そんな立場から、コミュニティの存在意義を「価値共創」の視点で考えるというテーマで記事を書こうと決めたんですが、下書きをはじめたらものすごい長文になってしまったのでw、なんと本編4記事+おまけの合計5記事に分けて投稿しようと思います。今回の内容はイントロダクションとして、価値共創が注目されるに至った背景についての私の考察です。
そんな長いの読めないよって方は、下の図がまとめなので先にどうぞ。
では本編です。
認知の限界と限定合理性
人工知能(AI)のパイオニアの一人で、1978年にノーベル経済学賞を受賞したハーバート・A・サイモンという政治学者でもあり経営学者、心理学者でもある方をご存知でしょうか。彼は著書『経営行動』で「認知の限界」を主概念に「限定合理性」について提唱しています。主なポイントをChatGPT先生に聞いてみましょう。
つまり限定合理性とは、意思決定プロセスにおいては、限られた情報下で特定水準をクリアした選択をするため、それは完全に合理的というわけではないという主張です。そしてサイモンの理論では、個々の意思決定者が完全な情報を持ち、またそれを完璧に処理することは不可能であるとされています(= 認知の限界)。この認知の限界が、個人ではなく組織を通じて意思決定を行う必要性を生み出しています。組織は、個々の能力を超えた情報処理や意思決定の要求に対処するための方法として機能すると説明しています。
複雑だから、つながりを求める
外の世界はますます、どんどん複雑化しています。組織で得られた限られた情報の外にも、実はたくさんの情報が存在していることはわかりながら、その複雑さを処理できなくなっているのが現状です。
サイモンの主張は、認知の限界を超えた膨大な量の情報を前にすると、未来への予測が困難になることを示していますが、私は同時に、認知の限界が、個人ではなく組織を通じて意思決定を行う必要性を生み出してるということから、未来への予測の困難に対する不安が高まるほど、逆説的に「つながり」によってそれに対処しようとしているとも解釈できると考えています。
ただ一方で、それが従来の企業内の「つながり(組織)」では限界が出ているということも、薄々わかり始めているのではないでしょうか。
意思決定の合理性を高めようとして「組織」という形にして対処しようとしても、組織内の同質性は徐々に高まり、多様な視点や情報処理が難しくなります。サイモンの理論では、意思決定はコンテキストにも依存するので、組織が同質化し硬直性が高まるほど、一定のコンテキスト化での意思決定に偏る傾向が出るでしょう。
さらに、外からの情報はますます増え、複雑化し、「企業内組織」でももはや情報処理しきれなくなり、合理的(に見える)意思決定ができづらくなってきているのです。
そこで、「つながり(組織)」は企業体を超え、もっと外のステークホルダーのつながりを重要視するようになったのではないかと思います。ステークホルダーとのつながりを強化することにより、経営や事業のVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)を回避しようという動きです。
こうしたステークホルダーとのつながりの強化は、例えばIRでは統合報告書等の透明性の向上、投資家とのコミュニケーション強化などで見て取ることができます。
そして、経営主体にとってのステークホルダーは様々ありますが、そのうち最も企業価値向上と密接に連携するものの一つが「顧客」です。 ※ここでは、「顧客」にはこれから「顧客」となるであろう「潜在顧客や市場セグメント」も含みます
顧客とのつながりを強化していくために顧客を知り、顧客の真のニーズを確認するという流れは起きて久しく、こうした顧客を知るという行為は、競争環境が激しい状況において、自社しか創ることのできないバリュー・プロポジションを明らかにするためにも必要なプロセスだと思います。