
テレビと舞台の「暗転」の違い
今回のキングオブコントでキーワードになった「暗転」。
「ニッポンの社長」が暗転を多用したことがマイナス点として評価され、大いに話題となりました。
「暗転」コントの中で使われる手法の1つですが、テレビを通して見るのと生で見るのとでは、印象が違う手法でもあります。
今回のキングオブコントでは、「劇場上でのコント」と「テレビでも面白いコント」の違いが顕著に現れた大会だったように思いました。
テレビの暗転と舞台上の暗転を一緒にしてはいけない
テレビでおける暗転は「真っ暗」です。
テレビ局のセット以外は真っ暗で、優秀な照明さんがいるので、舞台とは比にならないほど真っ暗になります。
また、たとえ優秀な照明さんがいなくても、審査員の顔を映せばテレビ画面に映りませんので、暗転と同様の効果が得られます。
一方、舞台上の暗転は「薄暗い」です。
つまり、「舞台の上に何かがおいてある」のが分かる程度の暗転です。
テレビの「バーンとスタートする」印象とは違い、生では「舞台の上に何か置いてあり、それらを使ってコントをする」という認識からスタートします。
また、暗転の明度は舞台によって異なります。
非常用看板が光り輝く舞台もありますので、鳥目の人でも分かるくらい明るいところもあります。

暗転中の笑いも存在するするけど、テレビでは基本カットされる
舞台ではたとえ暗転中でも、生で見るお客さんはしっかりと見ています。
その例として、私がたまたま番組観覧で訪れた時に起こった、アンジャッシュのハプニングを紹介しましょう。
【暗転中の笑いの例】アンジャッシュの「検索ちゃん」ネタバレ事件
前の人が終わり、コント用のセット差し替えるためにセットが暗転します。
そして、MCが入ります。
小池栄子「続いては、アンジャッシュのお二人です!!!」
太田さん「アンジャッシュはさ、リビングに電話とか置いたりとかしてさ、すれ違いコントをするんだよ。」
あるある…!と思いながら聞いていた太田さんの冗談ですが、
暗転中に置かれたコントのセットは衝撃的なものでした。
ソファ、ランプ、テレビ台、、、
太田さんの話のまんまで大爆笑!!!
まさか、まさか、、、と思い、ハラハラ見ていたら、、、、
電話台も登場!!!
太田さん、ネタバレしちゃダメじゃん!!!
もう会場は大爆笑でしたwww
さすがにここまで予言されると、アンジャッシュもニヤニヤしながら登場していました。
しかし、現場はあくまでもコントのセットチェンジ中。
これらの流れは、"全て"テレビでカットされます。
渡部さんの「太田さん、辞めてくださいよ…!!!」
の流れはテロップで説明が入り、
リアルタイムで起きた面白さは伝わりにくいように思いました。
ニッポンの社長は、暗転中に結構動いていたのでは?
さて、今回のKOCに話を戻しましょう。
今回のニッポンの社長のネタはショートコント風の作りをしており、「暗転」多様することで、シーンを切り替えています。
テレビでは真っ暗で何も見えず、カメラを審査員の表情で切り替えて、準備中の映像が映らないように工夫されています。
ニッポンの社長は、大阪ローカルでの番組出演も豊富にありますので、テレビでのコントも慣れていると思います。
そして、そのような処理をされることも、計算済みのはず。
しかし、これはあくまでテレビの画面上での話。
暗転の多用を目の前でやられると、暗転中の移動が気になって、コントに集中出来なくなります。
暗転中の移動まるで、アンガールズのショートコント
イメージとして一番近いのは、アンガールズのショートコントです。
コントの終わりに「はい、ジャンガジャンガ…」を挟むため、最終的には真ん中に戻ってくる必要があります。
もし、ショートコント中に舞台の端に移動してしまうと急いで中央に戻ることになりますが、そうなると「端から真ん中まで急いで戻ってきた」印象が強く残り、ネタの印象が薄くなってしまいます。
アンガールズのショートコントは"リズムを崩すお笑い"として"意図的に"やっているので、笑いに繋がります。
しかし、今回のニッポンの社長のネタの暗転は「出来れば見てほしくない」時間です。
私は生で見ていないので実際は分かりませんが、KOCでは指定された時間内に終わらせる必要性がありますので、暗転したら急いで移動している可能性が高いです。
それを繰り返していたら、生では「面白い」よりも「騒がしい」印象の方が強く残ってしまうため、審査員としてはマイナス評価になったのではと思います。
今回の大会で、暗転を上手く利用したコンビがいることを忘れてはいけない
「最高の人間」の時に言われた「暗転は過度な期待をさせる」という言葉。
過度な期待とはつまり、「暗転後に自分たちが想像しなかった世界が待ち受けているのでは?」という"期待"が込められています。
実は今回のキングオブコントで、「暗転」を上手く利用したコンビがいたのを覚えておりますでしょうか…?
そう。「いぬ」のキスネタです。
いぬも場面転換の手法として暗転を繰り返し使っておりますが、人間が横になりながら縦で支え合っている姿は、誰も想像出来ない展開です。
また、繰り返し使うことで「何か変化が起きるのでは?」と期待させといて、まさか上下逆になる展開だった"裏切り"の笑いも上手く利用しています。
このネタは、薄暗い舞台上よりも真っ暗になりカメラアングルが切り替えられるテレビの方が強いインパクトを与えられるので、
"テレビ向きのネタ"だったのではないかと思います。
あそこまでインパクトの強い暗転後の世界を見せつけられてしまったら、「最高の人間」に期待するの暗転後のオチに、もっともっと強いものを求めたくなりますよね。
一方で、人間の心理的には3回目の暗転を見たくなるので、それが無かった"がっかり感"が「いぬ」の敗因の一つだったのではないかと思います。
「暗転」を"滑る前提"として扱ったのが前回の王者
去年キングオブコントの王者・空気階段のSMネタも、ネタの最初に暗転を利用していることを忘れてはいけません。
真っ暗な中、ウーウーとサイレンがなり、赤い照明が照らされていることから、火事が起きていることが分かる
↓
バン!と暗転する
↓
SMクラブのM男が舞台の中心で椅子に座り、「女王様…女王様…」と探すところからコントがスタートする。
空気階段のコントは、シリアスな展開になる「火事」がテーマのコントかと思いきや、暗転したらそれとは対極のM男の登場し、大きな笑いを取るところから始まります。
このシーン、おそらく舞台だとうっすらと「何かが座っている」ことが分かるので、初見のインパクトがかなり和らぎます。
M男が登場した衝撃は、テレビの方が強かったのではと思います。
しかし、このコントにとってあくまでこれは客を引き寄せる手段でしかありませんでした。
そのあとで、もぐらさんのM男が登場するのですが、
「女王様」の存在を期待させるだけさせといて、M男が出てくる面白さを演出しているのです。
一瞬「出オチ」かと思わせるために暗転を使ってるので、滑れば滑るほど、その後のネタが面白くなることまで計算して作っています。
「ランジャタイ×ダイアン津田」のコントも"滑る前提"で作ってる
これと同じ手法を使っているのは「キングオブコント」の事前番組で放送された、「ランジャタイ×ダイアン津田さん」のコントでした。
暗転した後に人間が鳩になるシーンは、何事も無かったかのように音楽が再スタートします。
一方で、忍者やお母さんのシーンは照明を落としていないことから、「シーン転換」や「期待させる笑い」として暗転を使っていない。
つまりここでの暗転は"笑いを起こす"ことは想定しておらず、"意図的に滑らせる手法"としての暗転を利用しているのです。
一度滑ってから笑わせるのが上手い、ランジャタイならではのコントだったと思います。
キングオブコントでの"評価基準"が明確になった大会
ニッポンの社長の「テレビ慣れしすぎている人が使う"暗転"」と、
最高の人間の「テレビ慣れしていない人が使う"暗転"」が共存する、
正に暗転に左右される大会だったと思います。
一方で、今回の「暗転」に関しての審査員の発言により「テレビ上で見ても面白いコントか?」を考えながらネタを選んでいることがわかりました。
一方で、審査の対象は「テレビの前の視聴者」ではなく「現場で見ているお客さん」であることが明確になった大会でもあり、
舞台とテレビのコントの違いが浮き彫りになる、非常に興味深い大会でした。