ネイルサロンでの接客トークと福祉ネイルでの接遇としてのトーク
いきなりですが、
初めて行ったネイルサロンで急にこんなこと言われたら、みなさんだったらどうしますか?
あまりにも急に立ち入られすぎて引いてしまいますよね…。
私だったら座って2分で「やっぱり帰ります」と言って帰ると思います。
改めまして、浦安駅から30秒のネイルサロン
Pink Cloverのオーナーネイリスト兼スクール講師、
そして福祉ネイリストのわらじも履いてます!
福祉ネイル千葉浦安校講師の東條です。
ネイルサロンでのお話と福祉ネイルでのお話の違い
冒頭のぶっ飛んだ会話ですが、
通常、初対面の方にいきなりこんな立ち入った質問はしませんし、
サービス業従事者としてお客様とお話しするのならなおさらNGなので、
サロンに初めていらっしゃった方なら差し障りのないお話から始めることが普通です。
そこで一般的なのがお天気の話などですよね。
たとえば
「今日は暑いですね」
「外はすごい雨ですね、足元悪い中お越しいただいてありがとうございます」
「今日は急に気温が下がりましたね…この季節何着ていいのかわからなくなっちゃいますよね…」
「まだこの時間でも外が明るいですね、だいぶ日が伸びましたよね」
など。
そこから
「今日はお仕事帰りなんですか?」
と言ったお話やそこから掘り下げて
「土日がお休みですか?」
「会社の方や周りの方もネイルしている方多いですか?」
「会社で派手なネイルダメなど制限ありますか?」
とその後のネイルの提案にも役立ちそうなヒントを集めつつプライベートにはそこまで踏み込まない質問から始めることが多いです。
福祉ネイルでの“接遇”としてのトーク
ではこれが福祉ネイルの場合。
もちろんいきなり踏み込んだ質問をしないとかプライバシーに配慮するのは当然なのですが
たとえば目の前のお相手が認知症だった場合。
「この施設には週何回来てるんですか?」
「ここの施設に入られてどのくらいですか?」
「前回は何色でどんな模様のネイルにしたんですか?」
と質問すると軽度認知症で会話のキャッチボールが可能な方でも
「そうねぇどうだったかしら?」
「ちょっと最近忘れっぽくてね…」と気まずそうな雰囲気になり
最終的には「・・・・・」と口と心を閉ざしてしまいます。
特に初めから施術させていただく方が認知症とわかっている場合、
必要な情報は事前に施設の方や家族の方に確認しておくべきですし、
目の前のご本人にはプレッシャーをかけずに会話を楽しんでいただくことが目的なので
その方のお話ししやすい話題を探すほうが優先です。
認知症の方は一般的に症状が出始めてからの新しい事柄を記憶するのが難しく、
過去の記憶は残っていることが多いので、
過去のお話の方がいきいきと話してくださる場合が多いです。
また「回想法」を意識したトピック選びや、会話の進め方をすることで
プロが行う正式な回想法ではなくても同様の効果を得られます。
回想法とは
回想法とは、昔の懐かしい写真や音楽、昔使っていた馴染み深い家庭用品などを見たり、触れたりしながら、昔の経験や思い出を語り合う心理療法で
「自分の過去を話す」ことにより、 精神的な安定感が得られ、認知機能にもよい影響を与えるとされている、
認知症に対する療法の一つです。
過去の思い出を話すことでかけがえのない自分を再評価し、孤独感をやわらげる効果があるとも言われています。
ネイル×回想法の親和性
ネイルは基本1対1で対面で行い、手が触れる距離感で行います。
また施術中ずっと目を合わせているわけではないので、それが逆に話をしやすい効果があるとも言われています。
(真正面からずっと目を見られてるとちょっと照れて話しづらいよね 笑)
また、ネイリストは作業を進めながらお話を聞くこと、おしゃべりをすることがもともと得意です。
せっかく施術中おしゃべりするなら回想法を意識してより認知症の方によい時間を過ごしてもらえるように配慮することができます。
目指すはナチュラルな回想法
認知症カフェやグループホームなどで行う正式な回想法は
「ふるさと」「子供時代」などキーワードの書かれたカードなどを示し
「では〇〇さんからふるさとについてお話ししてください」などとグループで行うことが多いですが、
接客トーク上手なネイリストはそんな堅苦しいことはしません。
「〇〇さんはご出身はどちらですか?」
「△△県!いいところですね♡海が近かったですか?山の方でしたか?」
「そうなんですね!じゃあ美味しいお魚たくさん召し上がってたんじゃないですか?」
「へー!お父様は漁師さんだったんですね!〇〇さんもお手伝いしたりしていたんですか?」
「お手伝いたのしかったですか?大変でしたか?」
…と、
会話のキャッチボールの中で相手が話しやすいようにお話を進めていきます。
「故郷の〇〇県からいつごろこちらにお引越しされたんですか?」
という会話の答えに
「結婚して主人の転勤がきっかけで…」となれば
「ご主人は転勤が多いお仕事だったんですか?だんなさまはどんなかたですか?」
などと新しい登場人物の話ができますし、
「卒業して集団就職で上京した」と教えてくだされば
「どんなお仕事をされていたんですか?」と
仕事を始めた頃のお話を引き出すことができます。
回想法を始めるための質問
そんなナチュラルな、わざとらしくない回想法を目指したいけど
施術で手を動かしながら気の利いた質問ができない、お話がうまく引き出せない…
という方も特に経験の浅い福祉ネイリストには多いので、
私はスクールの福祉ネイリスト養成講座の中で
「回想法を始めるための質問」をあらかじめ考えておくというワークを取り入れています。
たとえば先ほどの
「ご出身はどちらですか?」は、ふるさとについてのエピソードをお聞きするためのきっかけ
もそうですし、
「ご兄弟はいいらっしゃいますか?」は、幼少期の過ごし方や遊びについての質問のきっかけ、
すでに配偶者やお子様の話題が出ていれば
「ご主人とはどこで知り合ったんですか?」
「5人も子育てされたんですね!毎日忙しかったんじゃないですか?」
といった話からその当時にタイムスリップしてその時の思い出や心情を話していただくことができます。
そうすると、たとえ認知症が進行し「今、ここ」がわからなくなってしまっている方でも
いきいきとお話ししてくださる時代が必ずあって、
その時の楽しかったエピソードや情景をお話してくださります。
接遇としての聞き役
もうひとつ私がスクールで伝えていることは
「徹底的に聞き役に徹するように」ということです。
これは福祉ネイルだけでなく、サロンのスタッフにも伝えていますが、
「自分の話ばかりしないように」
「キャッチボールなんだからちゃんと投げ返してあげるように」
そして
「サービス業としてお客様が気持ちよくお話しできるように聞き役に徹するのも接遇の一つ」
ということです。
たとえば先ほどの子育ての話。
「5人もお子さまいらっしゃるんですね!すごーい!
うちなんて3人ですけど長男は反抗期でもうまともに話してくれないですし、娘は朝全然起きてこなくて毎朝喧嘩ですし、
一番下はイヤイヤ期で保育園の帰りに公園寄るともうぜんぜん帰ってくれなくて…
あーもうほんと大変で毎日へとへとなんです…
なのに夫は全然家事に協力してくれないし…今朝なんてね・・・」
とこちらの話(しかも愚痴)を延々と話し続けたらどうでしょうか。
一見会話が続いているように見えますが、
私が客側の立場だったらゲンナリします。
なんで私この人の愚痴聞かなきゃいけないんだっけ?
って。
かといって質問攻めもダメ
だからといって聞き役に徹すること=むやみにたくさん質問することも違いますよね。
「ご出身はどちらですか?」→「兵庫県!へぇ。」
「ご兄弟は何人ですか?」→「6人?そうなんですねー」
「昔なにかお仕事されてましたか?」→「学校の先生?へーすごい」
「好きな色は何色ですか?」・・・
え、なに?尋問?
なんか個人情報抜こうとしてる?
って思いますよね笑
ちょっと大袈裟に書いているように見えますが、実際スクールでロープレ練習などしていてもこういうパターン、実は多いんです!
「相手のことを知りたい」「相手に気持ちよくお話ししてほしい」という気持ちよりも
「会話を途切れさせてはいけない」
「こちらからなにか質問しなくては」
「聞き役になってうまく会話をしなくっちゃ」
という気持ちが先行してしまっている場合や、
頭の中が次の作業の手順、上手に仕上げることなどでいっぱいいっぱいになってしまっていて
目の前の方に対して興味を持てていない状態です。
一つ投げかけた質問に対して答えが返ってきたらそのエピソードを掘り下げるような質問をする、
「そうなんですね!」「いいですね!」と相槌を打ったり共感したりしながらさらに
「その時何が一番たのしかったですか?」とその人の心のうちを聞いてみる、
その話題がひと段落したら関連する別の質問をしたり、
施術を進める上で必要な質問
(たとえば「今日このあと爪に色を塗らせていただくんですが〇〇さんは自然な肌馴染みの良いお色とはっきりしたお色どちらがお好きですか?」など)
をしたりと話題を変えていきます。
この脱・尋問や、少し掘り下げてから次の話題に移るトーク術は
自然にできる人も入ればかなり意識して練習しないと苦手な人もいますが、
苦手な人はこの本がわかりやすくて好きです。
最後に
もちろん接客は相手(お客さま)ありきのことなので、
「これをやれば絶対OK」な正解もないし、
その時々で臨機応変に対応することも求められますが、
一番大切にしなければいけないのは「目の前のお客様に心地よく過ごしていただくこと」ですよね。
福祉ネイリストを志してスクールに通い練習している時点で、
「高齢者や障がい者、その他福祉ネイルを必要とする方に笑顔になってほしい、喜んでほしい」という思いは必ずあるはずなので、
あらためてこうして文字にすると
「わかってるよ、そんなこと」
って思うかもしれませんが、慣れるまでの間やつい焦った時、緊張した時に難しいと感じる方もいると思います。
ここに記したテクニック通りじゃなくても、
すべての福祉ネイリストが目の前のご利用者さまを楽しく笑顔にして、
「福祉ネイルはただ爪が綺麗になるだけでなく会話でもこんなに良い効果がある!」ということが
もっともっと多くの方に知ってもらえることを願っています。
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