ただいま関西ツアーを終えて
三日間の内にたっぷりと関西の夏を浴び、いただいたたくさんのおかえりを抱えて、青森に帰ってきました。ただいま。
(「ただいま関西ツアー」のことはこちらの記事をどうぞ)
ツアー、ご都合が合わず行かれなかったというお声もいくつかいただいていましたので、全日程のできごとをセットリストと共に報告します!
8/23初日:本屋itoito(奈良)
ツアー期間中の拠点である京都から奈良へ。バス乗り場を間違えバスを一本見送る。奈良と京都は似ているとよく聞くけれど、自分にとって奈良は何かおおきな手のひらの上にいるような、誰かの家や庭に入っているような感覚、内と外の境目がはっきりしている町。ちょっと魔力高め。夜は奈良の方が風が通ってちゃんと涼しい。
本屋itoitoさんの縦さん横さんとは、昨年の海の日に自由港書店でひらいたイベント「青を祝する」にお越しくださって初めてお会いすることが叶いました。お店には今回が初の訪問。破石町(わりいしちょう)でバスを降りて、地図の上にある池の方面を目指して歩く(名勝大乗院庭園文化館でした)。現れたならまち工房Ⅱはちいさな村のような出立ち。建物の2階のitoitoさんへ。かつて学生アパートだった建物の一室が今は本で埋まっていて、まさに本の部屋。海外文学(特に韓国文学)や人が生きていくことに寄り添う人文の本が目立つ本棚をじっくり眺める間もなく、お客さんがいらっしゃったので、朗読を。(会場到着から朗読までの時間が自分史上一番短かった気がする!)
本屋itoito セットリスト
『発光』
『一杯の水を注ぐ手紙』
輪読(「うたういえ」「言葉による写生」「今宵に名前をつけるなら」)
『舟』
『観光記』
「いかりとひかり(詩集未収録)」
輪読のために持ってきたテキストはすべて詩集『舟』収録のもの。そのひとつ「うたういえ」は横さんのリクエスト。お客さんと縦さん横さんと一緒に一行ずつ読んでゆきます。
一緒に夜の名前をつける
「今宵に名前をつけたなら」は同名の朗読会を開催していた2016年に作った詩。今回はじめてのこころみとして、この詩の中にある「夜は 友だち / 夜は ペーパーナイフ / 夜は ちいさな湯ぶね / 夜は・・・」のところを読み切った後に続けて「夜は」だけを私が読み、続きをひとりずつに答えてもらいました。どんな言葉が出てきてもいい、悩んだり言い淀んだり重複してもいい、という前置きを付けて(なぜなら私がお客さんだったら絶対緊張するから…)、夜に名前をつけるという仕草でその場にいる全員で一篇の詩を作りました。自分では思いつかない言葉、その人からたった今生まれた言葉、それぞれの息が吹き込まれた言葉が詩の続きを作ってゆく。この日の夜、四人のお客さんと縦さん横さんと共に詩を作った時間が私はとてもうれしくておもしろくて、それがあまりによかったのでおかわりしたくて、二日目、三日目の朗読会で出会えた方々とも一緒に夜に名前をつけました。録音や書取はしていないので、生まれたその場で消えてゆく詩です。
朗読会後のお客さんとの語らいの中で紹介してくださったハン・ガンさんの詩集『引き出しに夕方をしまっておいた』を購入とポストカードを購入して(こんな風に出会えた本のことはやっぱり大事にしたい)、縦さん横さんとよい夜をすごし、忘れ物を届けてもらったりしつつ(ありがとうございました!)、奈良を後にしました。初日がitoitoさんでほんとうによかった。空間とお客さんが作るあたたかなひびきが朗読のよろこびを思い出させてくれました。ツアーのはじまりにうれしいおみやげを抱えて走り出せたことは自分にとって大きなことでした。
8/24二日目:犬と街灯(大阪)
この日も暑く、暑いが痛い関西の夏。犬と街灯さんは今年の3月ぶり。歌人の牛隆佑さんによって開催された店内イベント「牛と街灯5」にトークイベントのゲストに読んでいただいたとき以来です。半年も経っていないのに、もう一年以上前のよう。そして今度は「牛と街灯6」の開催中におじゃましました。
犬と街灯(昼の部) セットリスト
『一杯の水を注ぐ手紙』
『観光記』
みんなで「今宵に名前をつけるなら」
『舟』
『発光』
「レッスン(詩集未収録)」
「いかりとひかり(詩集未収録)」
犬と街灯の谷脇さんと「すがたかたち」(先行池田ver)
お久しぶりの方や3月ぶりの方、はじめましての方などなど交えてたのしく読ませていただきました。夜の部までに行こうと思っていた葉ね文庫のこと、わいわいしている間にすっかり忘れていまして、思い出した後炎天下の中、梅田へ。梅田で人を避ける能力がなくなっていて月日の流れを実感する。汗だくだくになりつつ辿り着き、七月堂さんの『AM 4:07』を買う。池上さんのお顔を見れただけでも大収穫。次会うのが何年先でもきっとたのしいしうれしいけれど、点と点を繋ぐための小さな点を置くというのも線が次の点に至るまでに大事なことかなと思う。そして案外会わないままに月日が流れても、あっというまに繋がる点と点がある。そう、今月は再会の多い月だった。
日が暮れてきて、夜の部。店主谷脇さんと牛さんは昼の部もいてくださったので、ちょっと変えようかなと思い、選びつつ読む。昼の部よりしっとりとした仕上がり。汗を拭いつつ読めたこと、青森の冬がどれだけ厳しくても体が覚えていますように。(体が覚えていること、私が思い出せますように!)
店主谷脇さんには当日打ち合わせで読む詩と先行を決めて読むという荒業でしたが(すみません…)選んだ詩に助けられ、谷脇さんの朗読に大きく助けられ、自分には作れない詩のすがたが立ち現れていました。皆で一篇を読むのもたのしく奥ゆかしいですが、ひとりの人と読むというのもたのしくてまだまだ研究したいなと思いました。谷脇さん、お相手ありがとうございました!
犬と街灯(夜の部) セットリスト
『発光』
『舟』
「レッスン(詩集未収録)」
みんなで「今宵に名前をつけるなら」
『観光記』
「いかりとひかり(詩集未収録)」
犬と街灯の谷脇さんと「すがたかたち」(先行谷脇さんver)
ツアーグッズのこと
今回、ツアーグッズ作りました!!!夏の詩を四篇書き下ろして、ひとつずつ手作りしました。夏の思い出としてお傍に在れたらうれしいです。次にツアーやるときはTシャツ作りたいな…。(ぼんやりした写真しかなくてごめんなさい!)
あと「ただいま関西ツアー」の告知画像やキーホルダーにもある青い波線、これはアイスクリーム買ったときに付いてくる木製の匙「スペシャルスプーン」をオマージュしています。お気づきの方もおられたかな?
8/25三日目:自由港書店(兵庫)
三日間、快晴!須磨海岸公園駅に着いて、まっすぐ海の方へゆけば自由港書店。お店へ行く前に、6月にリニューアルしたばかりの須磨海浜公園までそのまま歩いてゆく。浜辺は海をたのしむ人々であふれていました。案外日陰に入ると涼しくて、夏の終わりに近づいていることをこの三日間の中で初めて感じました。
今回、自由港書店では夜の朗読会だけの開催だったのですが、早々に満席になってしまったこともあり、臨時営業として昼にサイン会を開いていただきました。いつも自由港書店にいらしているお客さんや点滅社の『鬱の本』から知ってくださった方など、うれしいただいまのひとときでした。
夜の部は、店主の旦さんのアテンドで須磨海浜公園へ。すこしの間一緒にすごすのでお客さん同士簡単な自己紹介をして「出発の詩を」というリクエストから『舟』から「百年の散歩」読みました。
自由港書店 セットリスト
「百年の散歩」
『発光』
『一杯の水を注ぐ手紙』
『観光記』
みんなで「今宵に名前をつけるなら」
『舟』
「いかりとひかり(詩集未収録)」
「むねをあたためる(詩集未収録)」
「灯台」
この日はほとんどを屋外で朗読したのですが、風に吹かれながら読むのは風と共に読むことだと身を持って知りました。気持ちよかった!お客さんにはベンチに座ったり、芝生に寝転んだりしながら聞いていただいて、かなりイレギュラーな体験ではあったと思うのですが、お付き合いいただきありがとうございました。
散歩と詩が溶け合い、日が暮れてゆき、赤灯台の元で『舟』収録の短い詩「灯台」を読み、朗読会を終えました。
その後は、旦さんが準備してくださった花火をみなさんと。
当初、詩をお客さんと一緒に作ったり、自作の詩を読んでもらったりする時間を予定していましたが、時間をうまく作れず申し訳ありませんでした。『青を撫ぜる』も次回朗読する機会がいただけたなら、読みたいです。
自由港書店店主の旦さんが当日の様子をくわしく書いてくださいました。
ツアーが終わってしまったという実感が伴わないまま、それでもおひとりずつへ読めた時間や風や日没の光と影を体に携えて読めたことがその夜眠るときまで内側を大きく占めていて。なにか書きたくて眠気に抗っていたけれども、あえなく負けてしまい寝床から撮った写真だけが残っていました。
内なる平和へ向かうこと
「今宵に名前をつけるなら」でみなさんと詩を作った時間のおかげか、「詩を書いてみたくなった」というお声をツアー中いくつかいただきました。
言葉に息を分けることの手前には、言葉になる前のものと向かい合う時間がある。その時間は誰かが与えてくれるわけではなく自分が生み出すしかない。というのはここ最近の自分への戒めですが、生み出したいと思えること、まだ言葉になっていないものへまなざしを向け、向かい合おうと思えること。それはとてもいいことのように思えて、うれしいのです。
そして、このツアー各会場で出会ったお客さんとの会話の中で共通して聞いたことは、失うことと回復してゆくことについて。癒えてゆく過程にある人が朗読会でひとときすごすことを選んでくれたことについて、帰り道考えていました。
「Inner peace creates peace in the world.」
これはヨギティーのティーバックから出会った言葉ですが、詩を書きたくなることも、詩を聴きに来てくださることも、その人の中の内なる平和に向かっていることだと思うのです。内なる平和が、穏やかさや安心することがどうして必要か、その理由のひとつはそれがこの星の平和に繋がっているから。これまでいろんな言葉でずっと書いてきたことは、意外とこんなシンプルな言葉に至るのかもしれない。
またねのごあいさつ
自分にはだいじな町が多いです。私がどこにいても、詩集たちはだいじな町に場所を分けてもらってただそこで待っている。そんな詩集の在り方を一生涯頼もしく思うのだろうな。そしてそんな私と詩集の在り方がこうして叶っているのは本屋さんであることを選んでくれた人たちのおかげであり、その町で本をひらこうとするあなたの手指のはたらきと、ひらめきのおかげです。どこにいてもいつだって会えると疑わないでいてほしいので、またひょいと帰ります。会わなかったら変わるものというのは思っていたよりうんと少なくて、それは本を作って重ねてきた年月のおかげでよくわかりました。出会えたことがすべてだと、これからもまっすぐ言えるように。それから何より本を作ることのよろこびはこんなにも未来まで届く!2024年の夏を経た私は自信をもってそう言えます。
「ただいま関西ツアー」で出会ってくださったみなさま、ありがとうございました!本屋itoitoの縦さん横さん、犬と街灯の谷脇さん、牛さん、自由港書店の旦さん、たいへんお世話になりました!ありがとうございました。
また帰ってきます!いってきます!