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『百人一首を自分なりにアレンジしてみた。』No.8 喜撰法師
わが庵は 都のたつみ しかぞすむ 世をうぢ山と 人はいふなり
喜撰法師(第八番)
(現代語訳)
私の庵は都の東南にあって、このように(平穏に)暮らしてい
るというのに、世を憂いて逃れ住んでいる宇治(憂し)山だと、
世の人は言っているようだ。
*****
ある地方で語り継がれていること。
それはそれは昔のお話。
人里離れた山奥。
ある男は山菜採りに来ていたのだが、夢中になってしまってもう日が沈みかけていた。
日の光がなくなり夜になった後の山は恐ろしい。
そのことは肝に銘じていたのだが、夢中になっていたこともあってか、普段から入っている山なのにいつもとどこか違う気がした。
山菜採りの男はなんだか嫌な予感がしていた。
このまま歩き回っていても無事に村に帰りつける保証はない。
どこか、日が暮れる前に山小屋のような安全な場所を見つけなければ。
山菜採りの男は、この山には、鬼だか妖怪だかが住んでいると噂で聞いたことがあった。
いや、それは仙人だと言う人間もいた。
自分が食われなければ、この際、仙人でもなんでもよい。
そいつが住んでいる場所を見つけ出そう。
そう、山菜採りの男は普段ではありえないような思考回路から、ひたすらにそれらしき場所を探した。
日が沈んでしまうという焦りと、空腹も相まってそういう考えに至ってしまったのであろう。
西日が木々の間をすり抜けて降りていくのを目にしたときだった。
「ねえ」
人の声がした。
「あんた、麓の村の者でしょう。ここは危険な山だという噂は知らないのかい」
山菜採りの男が声のした方に身体ごと向けると、そこに女が立っていた。
「日が沈むと鬼が出るよ……と、あんた、いいもの持ってるじゃないか。ここから村は遠い。あたしの家へ来な」
いいものとは、昼間に採っていた山菜のことのようだ。
しかし、ついていってよいものだろうか。
この女が、例の鬼かもしれないじゃないか。
しかし、独りでこれ以上山中をうろつくのはどのみち危険なので、謎の女の言う通りにする。
女の表情はもう暗くてわからなかったが、山菜採りの男が言う通りにすると理解したのか、踵を返し、一方向へ向かってあるき出した。
「付いて来な。それから、それ、鍋にしてやるから食え。そんで、朝になるまで居な。いいもの持ってる奴には親切にする。お相子だ」
話がどんどん進んでゆくが、ついて行くしかなさそうだ。
女の住処に着くと、女の言う通り、男の採ってきた山菜でつくった鍋を振る舞われ、寝床まで用意された。
女は、男が寝床に着いた後、どこかへ出ていったようだ。
男は、女の正体は鬼か妖怪か、自分は食べられるのではないか、と気になり寝付けないでいたのだ。
結局、その後女が住処へ戻ってくることはなく、男は無事に朝日を拝むことができた。
山菜採りの男は、自分の状況にあっけにとられたと同時に、昨晩から今朝にかけての異様な時間について恐ろしくなり、急いで山をおりた。
それから、山菜採りの男は無事に村へ帰り着くことになるが、女の正体は昔話には残っていない。
その女が鬼であれ妖怪であれ、その山に入るときは供物を持って入ると、たとえ迷子になっても女が供物と引き換えに助けてくれるという話が広まった。
それは、今でも語り継がれている。
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