『百人一首を自分なりにアレンジしてみた。』No.11 参議篁
わたの原 八十島かけて漕ぎ出でぬと 人には告げよ 海人の釣り舟
参議篁(第十一番)
(現代語訳)
広い海を、たくさんの島々を目指して漕ぎ出して行ったよ、と都にいる人々には告げてくれ、漁師の釣り船よ。
*****
「お兄さん、どこへ行くの?」
幼い少女が青年を見上げて声をかけた。
「遠いところへ行くのさ、そう、遠い遠いところへ」
青年はしゃがみ込み、少女と目の高さを合わせると、悲しそうに微笑んでそう言った。
「帰ってこないの?」
「ああ、もうここには戻らない」
「お母さんは?お父さんは?きょうだいたちは?いないの?悲しくないの?」
少女は腕の中のぬいぐるみをギュッと抱きしめて青年を質問攻めにする。
「お母さんも、お父さんも、きょうだいたちも、いたんだ、昔は」
「昔」
「でも、もうそれは覚えていなくてもいいことなんだよ」
「忘れちゃうの?悲しいよ、そんなの」
少女は青年から目を逸らし、うつむいた。
泣いているようにも見えた。
青年は、まいったな、という表情でやはり悲しげに微笑むばかりだ。
この子とだけは、こんな別れ方したくなかったんだけどな。
深夜にこっそりと村を出ていこうとしたら、少女に気づかれてしまったのだ。
少女にだけは、英雄譚として記憶していてほしかったのに。
現実とは、うまくいかないものだと、青年は思った。
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