CI活動:警察のイメージづくりとその管理
一九九四年(平成六)六月二十四日、「警察法」改正を公布し、七月一日より施行した。
警務局および刑事保安部を廃止し、生活安全局、情報通信局(通信局 の改称)、長官官房国際部を新設、警察署の下部機構としての交番を正式名称化した。
旧警務局の警察職員の人事、警察教養等の事務は長官官房に移され、生活 安全局の所掌事務として、「犯罪、事故その他の事案に係る市民生活の安全と平穏」及び「地域警察その他の警ら」に関する事務等を新設した(白藤博行「警察法『改正』の行政法学的検討」『各国警察制度の再編 法政大学現代法研究所叢書14』法政大学出版局、一九九五年)。
この「警察法」改正によって、警察活動の拡大が図られ、日本警察は新たな進化の段階に入った。
一九七〇年代、日本警察は「国民と警察との間に暖かい血を通わせ、国民の関心を警察の関心とし、また警察の関心に国民の協力が得られるような緊密な関係 を樹立する」ことを目指してCR戦略を展開した(原野翹『治安と人権』岩波書店、一九八四年)。
これに加えて一九九〇年代からは、従来からの慢性的な警察 官不足を解決することを理由として、イメージアップのためのCI活動(理想的な企業イメージづくりとその管理[警察の場合は「理想的な警察のイメージづく りとその管理」といった意味になる])を積極的に展開している。
現在、日本警察では、パンフレット、ポスター、懸垂幕、ダイレクトメール等既存の広報媒体の利用に加えて、テレビやプロモーションビデオ等の広報媒体の利用、警察官志望者の特性を分析した上での積極的な勧誘、新庁舎の建設、独身寮の建設、婦人警察官の積極的採用、一流スポーツ選手の採用、警察学校の教養内容の改善等々、イメージアップのためのCI活動を積極的に展開している(河上和夫ほか『講座日本の警察 第一巻 警察総論』立花書房、一九九三年)。
これにあわせて、警察協会、交通安全協会、町内会、防犯協会、警察官友の会等、 警察主導の民間団体の広範囲な組織化がすすめられている(日本弁護士連合会編『検証 日本の警察』日本評論社、一九九五年)。
そして、警察官は、「警察官個人が『一人一人が広報マン』との自覚に立って国民の信頼を得るにふさわしい職務執行 をすることが広報の基盤となる」(篠原弘志「警察と報道」『講座日本の警察 第一巻 警察総論』)と、国民の環視をイメージすることによってその行為を留 保し一定の行動をとることをひとりひとりの警察官に求めている。
警察の「サービス的活動は、戦前の行政法学に言う『警察(作用)』の枠をはみ出している」(小野次郎「市民とともにある警察活動」『講座日本の警察 第 一巻 警察総論』)といわれており、「広報啓発活動」「スポーツ指導」「社会奉仕活動の指導」「警察音楽隊の活動」「相談業務」等多種多様な「警察のサー ビス的活動」が存在する。
その一つに警察官のボランティア活動がある。警察官のボランティア活動は、「警察官が自分の損得ぬきの奉仕精神で、地域の人々に 対してボランティア活動をしてくれるということになると、普通の人ならば感激をし、感謝の気持ちを持つと思う」。「その地域の人々の感激や感謝の気持ち (心の動き)が、具体的には地域安全活動や情報提供、交番連絡協議会活動など各種警察活動に対する理解と協力という形になって現れてくる」(「交番日記」 『日刊警察新聞社』一九九七年九月三〇日〈火〉)と、「普通の人」を対象に考えられている。
このような業務を行う警察官は、「階級」は栄誉であるとの理解から、「階級は、それぞれ異なる能力と個性を持った多数の職員を―中略―分類しようとする ものであり、その意味で『人の記号化』」(宮園司史「警察官の階級制度について」『講座日本の警察 第一巻 警察総論』)がなされている。
そして、記号化 された警察官にとっての一番身近な市民が、広報活動によって警察活動に理解と協力を示す、「警察が頼りとする代表的な市民」である。
この「警察が頼りとする代表的な市民」である「町内会組織を伝統的 基盤とする交通安全協会、防犯協会などの―中略―警察協力団体は、建前上老若男女を問わない構成となっているから、これを主たる対象にする限り警察の普遍 性を疑われることは少な」く、「英米の犯罪防止協会や犯罪者厚生委員会」や、「類似の活動を一部行っているロータリークラブ等と」比べ、日本の警察協力団 体は、「『普通のオジさん、オバさん』が中心となっている」ことから、「平均的市民の声を代表している度合いがより高い印象」がある(小野次郎「市民とと もにある警察活動」)といわれている。
このように、市民全体の中から「警察が頼りとする代表的な市民」が切り取られ、警察によって警察にとっての「平均的市民」というイメージが形成され、 「平均的市民の声」を反映させた警察のイメージが形成されている。
「平均的市民」というイメージは、階級によって記号化された警察官によって、各種の警察 協力団体に分節され記号化されている。
そして、町内会組織を伝統的基盤とする交通安全協会、防犯協会など各種の警察協力団体は、警察が宣伝する警察のイ メージを消費することによって、「警察のサービス的活動」(警察行政サービス)の一端を生産し、警察のイメージの中に自らを組み込んでいる。
さらに、「一様に見える市民社会も、警察行政との距離や親密度の点から見るとかなりの差異を含んだいくつかのカテゴリーに分類することが可能」(小野次郎「市民とともにある警察活動」)とされており、記号化された市民は、警察のイメージに組み込まれると、警察が作ったイメージによる遠近法によって再配置され、それによって市民と警察との関係性をイメージすることになる。
「地域警察」は、「市民全体を、警察を支援する特別な利益団体にする」(ジェローム・H・スコルニク、ディヴィッド・H・ベイリー 田中俊江訳「地域警 察の目標及び形体」『講座日本の警察 第一巻 警察総論』)といわれており、記号化された「平均的市民」は、警察のイメージに内包されることによって、市 民相互の関係性を互に警察のイメージを介してイメージしていることになる。
このようにして警察は、市民全体を「利益団体」化し、社会を警察のCI活動の シュミレーション・モデルの複製にしようとしているのである。