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2019/03/02 男同士が語る どうしたら痴漢をなくせるか〜痴漢撲滅に向けた埼玉からの発信〜【メモ】

・ゲスト:斉藤章佳さん(精神保健福祉士)、武田砂鉄さん(ライター)
・「メンズプロジェクト」と題して『痴漢』をテーマに男性ゲストがトークするというなかなか珍しいイベント。主催者の挨拶では「いつも男性の集客が課題」という話があったけど、当日は参加者の4割が男性だった。すごい。
・With You さいたまでは年に2回、男性向けの講座を行なっているそう。また月に1回、「男性臨床心理士による男性のための電話相談」を実施。

●講演「なぜ男は痴漢になるのか」斉藤章佳さん

クリニックで性犯罪防止プログラムを立ち上げたのは、ちょうど奈良小1女児殺害事件があった時。これまで2000名以上の性犯罪者と会っていて、そのうち痴漢は800人以上。「先生、なんで痴漢の気持ちがわかるんですか?」と言われるが、それはたぶん日本で一番痴漢の人に会っているから。

日本で多いと言われている性犯罪は痴漢、盗撮。
クリニックに来る人の特徴は「常習的な人」。痴漢で捕まって、刑事訴訟になって、追い詰められて、初めて行動変容しようと思って来る。

男が痴漢になる理由』のキーワードは「男尊女卑」
表紙を見たときに、私の「斉藤章佳」という名前を見て女性だと思う人がいる。その時点で読まないと決めてしまう男性も。
「どうせまた女が『男は痴漢になるんだ』みたいに批判する本だ」と思って、表紙を見た段階で拒否反応を示してしまう。でも私が男性だとわかると、「あ、男が書いたなら読んでみよう」と思って読み始める男性が非常に多い。

クリニックに「斉藤という男は、日本は男尊女卑の社会だと言っているが、俺はそうじゃない!」とクレームの電話が入ることもある。電話を取った女性スタッフが「横に著者がいるのでかわる」と言うとガチャッと切られる。
=女性には言えて、男性には言えない。それこそ男尊女卑だと思う。

そもそも性暴力や性犯罪の実態とは? 加害を繰り返す人の実態が世間に知られていない。裁判に出廷すると、裁判官も警察官も「性欲が強いからやったんだろう」という話に流れていく。私はそもそも性犯罪を語るときに性欲の話をするのを辞めましょうと言っている。
クリニックの初診で「あなたは性欲が強いですか?」と聞くと、ほとんどの人がNO。
 ・ストレスが溜まっていたから
 ・支配欲
 ・相手をいじめている感覚に優越感や達成感があった
 ・レジャー感覚、レベルアップしていく感覚

痴漢をした人の6割強が「四大卒」「妻子持ち」「サラリーマン」
目の前にいる患者さんは、私となんら変わらない、と思った。=私の中にも加害者性はあるんだろうか? みんな加害者性を持っていて、それに自覚的になることが大事。

あと、モテない男かというとそうではない。私の中のイメージとしては「イケメン」「イクメン」「長時間労働を厭わないサラリーマン」

痴漢はどういう人を狙うのか?=警察に訴え出なさそうな泣き寝入りしそうな人
彼らはターゲットを本能的に嗅覚で見分けるのだそう。一番重要なのは警察に逮捕されないこと。仕事や家族を失わないために。
加害者もなんとなくわかるらしい。冗談で、ちゃんとプログラム受けて回復したら、痴漢G面になったらいいんじゃないかと言ってる。

どうも性犯罪の話になると「男は性欲があるから仕方ない」と、煙に巻かれてしまう。これで得するのは加害者。確かに、衝動的な性犯罪者もいるけど、ほとんどの人は交番の前ではやらない。状況や場所や被害者を選んでいる。そしてスキルアップしている。

去年、Twitterで拡散された「わざとぶつかってくる人」は、痴漢にすごく似ていると思った。最初はわざとじゃなくてたまたまぶつかったが、それが征服欲や爽快感を生む。

田房永子さん「膜の中のストーリー」
被害者女性から見た認知の歪みを描いている。痴漢加害者は自分の外側に膜を持っている。この膜の中に女性が入ってくると主観と客観がバラバラになる。向こうから入ってきたから何をしてもいいだろうと考える。

性暴力を性欲の問題だけで考えると本質を見誤る。彼らは「性」を通して何を満たそうとしているか? 男尊女卑的な価値観はどこで学習するのか? やっぱり家庭だと思う。
父親は母親を「お前」と呼ぶ。もっと上は「ちゃぶ台返し世代」。私もそれを見て育っていて、根底には男尊女卑を植えつけられている。だから新しい価値観をインストールしてアップデートしていく必要がある。
アダルトサイトと性教育の問題も重要。実はアダルトサイトを真似て事件を起こした人は少数。ただ常習化した人のトリガーにはなっている。
性犯罪の一次予防:性教育
性犯罪の二次予防:早期発見、早期治療
性犯罪の三次予防:再発防止プログラム

●対談「どうしたら痴漢をなくせるか」斉藤章佳さん×武田砂鉄さん

武田
最初にこのイベントのお話をいただいた時に「痴漢が多発する埼京線が通う埼玉県で~」という触れ込みだった。確かに埼京線って痴漢が多いイメージがある。

斉藤
実際に多いと思う。いろんな要因がある。クリニックに来られる方に聞くと、(正確なデータではないけど)東西線が多かった。(株)ライトレールの阿部さんに聞いたら、乗車率が圧倒的に多いのだそう。ピーク時は、乗車率200%とも。

武田
日本は定刻発車をやたら守る国だと言われる。痴漢被害に遭って、本来なら停止ボタンを押していいのに、この程度で申し出てはいけないんだと思ってしまうのかも。

斉藤
暗数が多い。こんな痴漢程度でという認識が男性側には強い。サッと触られただけで、相手の家族を貶めたり、何百万という金を要求したりとか、何故そこまで騒ぐ?と。
痴漢被害の実態は、そういうケースもあるけど、ひどい時は精液をかけられたり、下着の中に手を入れて性器を触られて、そのまま外までついてこられたりする場合もある。自尊心を削られる行為。こういう事態をもっと知ってほしい。

武田
日本の満員電車って「俺たちのもの!」って感じが強い。満員電車にベビーカーが乗ってきたら舌打ちが聞こえてくる。満員電車って仕組みを変えないといけないのかなと思った。小池百合子さんが、都知事になった時に満員電車ゼロを公約に掲げてたけど実現してない。二階建てってどうやるんだよ。

斉藤
都内の電車は、転落防止のゲートがほとんど設置されている。相当予算をかけていると思う。あれは飛び込みなどがあった時に鉄道会社としての損失が大きいから設置する意義がある。でも痴漢を防ぐためにお金をかける意義は? なんで鉄道会社が痴漢の問題に本気にならないのか?
経済的に、現在の本数でたくさんの人を輸送できた方がいいからだろう。痴漢の問題は二の次になっているのでは。

武田
先日知人の女性と話していて、中学生のころに知らない男の人に抱きつかれたことがある、と。その人はそこで済んだから、「大事に至らなくてよかったね」と言ってしまった。でも、彼女にとってはもう大事に至っている。想像力が働かなかった。
痴漢の場合、「触られただけでよかったね」とか「下着の中に手を入れられた人に比べてよかったね」とか「MAXが10なら4で済んでよかったね」とか、勝手にこっちがジャッジしちゃうことがあると思う。

斉藤
性犯罪の再犯防止プログラムをする上で欠かせないのは、被害者の体験を聞くこと。インプットしていかないと、私も男性なので、加害男性の話に吸い寄せられることがある。中立性を保つには被害者の生の声を聞いていく。それをやらないとバランスが保てない。バランスボールに乗っているような感覚が大事。

にのみやさをりさんが「私ずっと歯医者に行けなかった」と言っていた。想像力が働かなくて、彼女がどういう被害を受けたのか思い出した。歯医者って大体、寝た状態で医師が覆いかぶさるような姿勢になる。この状態がフラッシュバックを引き起こしてしまう。それって当事者から聞かないとわからない。被害から20年以上経って「歯医者くらいいけるでしょ」と言ってしまう。それはセカンドレイプになる。

武田
週刊誌を読んでいると、痴漢冤罪記事が多い。週刊現代、週刊ポストあたり。
週刊誌を読んでいる50~60代の男性たちと痴漢について話そうとすると、たぶん3秒後には冤罪の話をする。なぜならその情報だけが頭に入っているから。

斉藤
もちろん痴漢冤罪はあってはいけない。でもそもそも痴漢冤罪の母数と痴漢被害の母数は全然違う。母数が違うものを同じ土俵で扱うのは本末転倒。それによって得する人=加害者。その空気を作り出しているのは日本の社会。根底には男尊女卑がある。

武田
すぐに男vs女の構造に持っていかれがち。痴漢にトラウマを持つ女性が疑心暗鬼になって怯えながら乗るのと、男性が痴漢に間違えられないように両手を上げて電車に乗るのとでは、全然負担が違う。VS構造にすること自体がナンセンス。

斉藤
なぜ力が弱い女性や子どもに対して加害行動を繰り返すのか? 男性が抱く恐怖心。
自分より弱い立場の人に攻撃されたらどうしようとか。男性の恐怖をどう扱っていくかが大事。その辛さや弱さをどのように出していくか。

私がこの仕事を始めたときに上司から「君、まだ一年目はそれでいいけど、いつか壊れる」と言われた。熱を上げすぎて、患者との境界線がわからなくて鬱になる、と。それで「1日3回、同僚でも上司でもいいから人に助けを求めなさい」と言われた。私が人に相談ができないのを見抜かれていた。実際にやってみたら3日目でもう辛かった。人に相談することで「仕事ができないやつ」と思われるんじゃないか。「なんで俺は相談できないんだろう」という問いにぶつかった。

そこで気づかせてくれたのが依存症の患者さん。快復していく患者さんと話して、時々私の方が病気かもと思うことがある。頑張りすぎたり、数字にこだわったり。彼らが快復できる理由は謙虚さじゃないか。私は傲慢だったんだと。人に相談するのがスキルになれば問題解決も早くなる。相手も自分を信頼してくれる。そこから少しずつ楽になった。依存症の患者さんに感謝している。

●質疑応答
Q 痴漢が多いのは東京だけ?

斉藤
痴漢の五大都市は、東京・大阪・名古屋・福岡・札幌。大都市には痴漢防止のためのクリニックがあったほうがいいんじゃないかと思う。

Q 風俗の痴漢プレイがあるけれど、犯罪の抑止力になっているのか?

斉藤
性犯罪の抑止に風俗産業がいい影響があるんじゃないか、逆に助長しているんじゃないか、はよく行われる議論。誰も研究者はエビデンスを出せない。個人的には、もし性産業で抑止力があるなら、こんなに増えてないと思う。

加害者の中の話では、これからの時代はVRとセックスドールだと言われている。痴漢のVRが出ていて、それを見ると本当の場所でやりたくなるのだそう。今ペドフィリアの治療をやっている。日本は、子ども型のセックスドールを生産しているけど、ああいうので我慢するのは絶対に無理だと言われている。

Q 日本は痴漢や盗撮が多いとのことだったが、海外と比べてどうか?
 
斉藤
日本ほどじゃないけど、フランスも多い。外国人が日本に来て痴漢を学習してしまうケースもある。

Q 学生の頃、制服を着ているときに痴漢被害に遭っていた。でも私服の時はなかった。ターゲットの服装は関係ある?

斉藤
制服をターゲットにしている痴漢はすごく多い。なんで制服という記号に対してそこまで執着するのか聞いたら「制服は従順の象徴だから」とある人が言った。制服を着ている=逆らわない。秩序に則る、反抗してこないというイメージ。

武田
「派手な格好をしているから悪い」とか「露出がある服を着ているから襲われる」とか、エビデンスもなく、スローガンのようにいう人はいるが、そうではない。

去年、TOKIOの山口達也が書類送検されて芸能界から消えた。部屋についってった女性の方が悪いという意見が割と早い段階から出た。それを追認するような芸能人の発言も。被害に遭った女性の方を責めるという悪しき風土はどうやったら変えられる?

斉藤
加害者は力の強い人、被害者は力の弱い人という構図に、想像力が働かない人たちが変わっていかないといけない。あと、なんで私自身が痴漢に遭わないんだろうと考えたことがあった。中村うさぎさんが「男は性的な視点で搾取されたり、性的な視線を向けられたりする経験が少ないでしょ、だから想像できないんだよ」と言っていて、それは確かにそうだと思った。

Q 病気だから仕方ないと開き直る人もいると思う。そういうときに被害者の辛さをどう伝えている?

斉藤
病気だからコントロールできないんじゃないかと思ってしまう人がいる。「病理化してしまうことは、あなた自身の行為責任を隠蔽してしまう機能がある。常にあなた自身が考え、加害責任を取ることだ」と伝える。私たちは、加害者支援ではなく、加害者臨床や加害者教育と呼んでいる。


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