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絵本"The Giving Tree" と 木工 と。
"The Giving Tree" 邦題は「おおきな木」と訳されている。
村上春樹が翻訳したことでも有名だろう。
絵本のあらすじはこう。(このあらすじは引用ではありません)
あるところに一本の木があった。
その木はある小さな男の子のことが好きだった。
その男の子は毎日木のところに遊びにきた。
葉っぱ集めや、木登り、いろんなことをして毎日遊んだ。
木からリンゴをもらって食べたりもした。
男の子も木が大好きだった、木は幸せだった。
時が経って、男の子は大人になっていった。
木のところに来る回数は減っていった。
ある時久しぶりに木のところに来た大人になった男の子は
木にリンゴをくれるように頼む、リンゴを金に変えるためだ。
久しぶりに来てくれた男の子のことが嬉しくて、
木はありったけのリンゴを男の子に与えた。
それからまた時は経って、いい歳になった男の子が久しぶりに訪れた。
船出のために木に材料をよこせと頼みに来たのだ。
木は自身を与えた、男の子はボートを作って遠くに行ってしまった。
それからまた時が経って、老人になった男の子が木のもとを訪れた。
木は先に口を開いた。
「もうあなたにあげられるものがないの、ごめんなさい」
老人の男の子は言った。
「何かをもらいに来たんじゃない、ただ静かなで腰をかけられる場所に来たんだ。僕は疲れたんだよ」
男の子はそう言って、切り株になった木に腰をかけた。
Once there was a tree...(and she loved a little boy.)
私は木工を始めた後にこの絵本に出会ったのであるが、
出会って以降、この本の解を考えてはあるところで落ち着かせ、
しかしまた落ち着かなくなって考えるという、無限ループを繰り返している。
どこがこの懐の落ち着かないところかといえば、おそらく
木の気持ちがわからないところだろう。
本当に幸せ?どうしたら幸せ?
この物語は木を比喩として用いた人間同士のことであろうが、
木工をやっていて、かつ日本の森林のおける現状を少しでもよくしたいと
思って制作していると木を人としての比喩ではなく、木そのものとして
捉えてしまう。そして答えは出ない。
And every day the boy would come, and he would gather her leaves.
多分死ぬまで続くだろう、そして考えた結果は毎回微妙に違っているが
歳を経たり、時代が変わることによってもまた変わってきて
落ち着いては落ち着かなくなり、また考えるをひたすら繰り返す。
そうやってこねくり回したものが器で昇華されることを理由にして
無限ループの制作活動を続ける。
いただいた大切な材料。
彼の作った船はしっかりと海を越えてその役割を果たした。
彼の作った船はきっと美しく仕上がっただろう。
unis (虎ノ門ヒルズ1F)にて 桜材漆仕上げのオリジナルスプーンを製作させていただきました(2020.12)