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《脱いでいく旅》

生まれてきた時、裸ん坊だった。
この世界のすべての名前を知らされずに生まれてきて、無心に世界をみつめていた。

それからお洋服を着て、歩き始めて、
味を知り、言葉を知り、
歌を覚えて、おともだちができて、
恋をして、知識を得て、
誰かの役にたちたくて、
働いて、家族をつくって。

仲良くなれるひともいれば、
なれないひともいて。

理解できることもあれば
できないこともあって。

幸福をもらうこともあれば
傷つけられることもあって。

いつのまにか、わたしは世界をみるとき、
“名前”というひとつの道具を手にしていた。

“名前をつける”っていうのは、過去に経験したことに紐付けて、いま起きてることを見るということ。

“名前”があれば、むかしの経験をいかして準備できるから、安心だ。
“名前”は最高の味方なんだ、ずっとそう思ってた。

けれど今わたしは、裸ん坊の世界に戻りたくなっている。
名前がついていない、はじめてを味わいたい。
ちょっとこわいけど、そんな衝動にかられている。

今まで自分で勝手につけてた名前を外して
過去をみたら、もしかしたらまるで違って見えるかもしれない。
それはどんな景色なんだろう?

これから先は、つけた“名前”を忘れる旅。
寒い寒いと、重ねて着てきたものを脱ぐ旅。

いつでも、「はじめまして」の気持ちで世界をみつめる旅。

裸ん坊になったとしても、
世界はそんなに怖い場所じゃないよって
猫がよこで、言っている。

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