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《自分のストーリーを生きる》

取材で、「お店をやるのは昔からの夢だったんですか?雑貨屋さんになりたかったんですか?」と聞かれることがあって、でも実は、お店を始める時にも、それが夢だったわけではない。

大学時代に就職活動をしているとき、わたしにはなりたい職業、憧れの職種はなにもなかった。

日本文学科で文学が好きだったけれど、出版社に入りたいとか、出版関係に就職したいとは思わなかったし、心が動かされる音楽を聴いても、ミュージシャンになりたいとか、音楽会社に入りたいと思わなかった。

なにが本当にやりたいかわからないけど、心が唯一ときめいた“森の暮らし”がしたくて、山の上の湖の麓のホテルで寮住まいをしながら、働いてみた。

そしたら、寮で、隣の隣の隣くらいに住んでいた女の子が小説や詩を書いていて、私も書いていたので、交換日記が始まった。

森の暮らしには娯楽がないので、星や湖や霧や植物がエンターテイメントになり、詩や物語が生まれ、創造したことをノートに書いて、彼女のドアノブに交換日記をかけた。
そうしたら同じ風景を見て感じたきもちが、また詩や物語や写真になり、ノートに書き足されて、返ってきた。

そのノートにはベルとナタリーという架空の女の子が登場して、いつしか物語になった。
それから山を降りて、町に戻って、編集して製本して、雑貨屋さんにおいてもらったりした。

そのストーリーは、ベルとナタリーがいろんな人や動物に出会うのだけど、
その子たちの一般的には欠点とよばれる性質は、ふつうの世界では嫌われたり避けられたりするのだけど、
奥の奥には純粋な想いがあったり、欠点と呼ばれる部分を補うような人が現れたり、そのことで補っているようで救われる人がいたりして…
とにかく、誰のことも否定しない循環のストーリーで、私自身がそのストーリーで私を癒していた。

そうこうしているうちに、雑貨店兼カフェ兼出版社というふしぎな会社に就職した。
私たちのZINEをおいてくれたところで、生まれてはじめて、ここで働きたいなぁと思った場所だった。

働きながら、ベルとナタリーの物語を書いては、製本して、雑貨屋さんやカフェの展示会に出品させてもらった。

本の中のベルとナタリーの物語はすすみ、ベルは古い一軒家でカフェのようなお店を始めて、家みたいな場所だけどいろんな人が出入りをするお店で、ベルの日常が変化するお話ができた。

そのお話を書きながら、「お店があったらいいな」と思った。
ふつうの家は友達や知り合いしかこないけれど、お店ならばいろんな人が出入りして、物語が日々展開する。
なんて、たのしそうなんだろう!
そう思うと、リアルなわたしと、物語のなかにいるわたしが重なり、お店が欲しくなった。

リアルな世界にやりたい職業はひとつもなかったのに、はじめて、やりたいことが生まれた。

今、世の中にあるものの中から、やりたいことを探す選択肢が、ほとんどだ。
けれど、自分の中にある“種”から育てる仕事も、またあると思う。
それは大きくカテゴライズすれば、既存の呼び名があるかもしれないけれど、中身はまるで違う場合もあるし、
そもそもカテゴライズするのさえ、難しいものもある。

適職、天職、使命、本当にやりたいこと…
外の世界を見ても、しっくりこなくて途方にくれたときは、
自分の内側にある“種”をみつけること。
“種”をみつければ、それを育てられるのは自分だけだから、
やりがいも夢もしぜんに生まれてくるのです。 

ここではその“種”になるものを、みつけたり
育てるのに、ヒントになればいいな、と思う話をシェアしたいと思っています。

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