始まらなかった恋 ③/6 「電話」
前回の話はコチラ↓
1994年秋
「もしもし、久我ですけど」
私は急いで電話の子機を持って、自分の部屋の隅っこまで走った。
「久我くん、え?久我くん?」
「アヤ?」
いきなり呼び捨て
まぁ、いいか
「ひ、久しぶり」
「久しぶりだな、元気?」
「元気だよ。いきなりでびっくりしたよ」
「前に幹事のS田から電話があってさ、とりあえずこの番号にかけろって言われて。ちょっと時間たっちゃったんだけど、、、ごめんな」
S美だ。
なんだかんだでS美が繋げてくれたんだ。
それにしてもごめんとか言われて、なんだかちょっと恥ずかしいんだけど汗
でもこれってその、久我くんは私が久我くんの事をいいと思ってる事を知ってる前提の電話だよね
やべー、何話せばいいんだよ
と思いながらも、
「久我くん、ちゃんと勉強してる?」
「してるに決まってんだろ。俺、天才だからさ。それにしても今日寒くない?さ、さぶっ」
「寒い?私今半袖だけど」
ザー ザー
電話口から車の通る音がする
「なんかちょっと後ろが騒がしいけど、、、
久我くんもしかして外にいる?」
「あー、バレた?公衆電話からかけてる。実は俺、今長野にいるんだよ」
ザー ザー
「は?長野?どういうこと?」
「長野の松本に住んでる」
「住んでるって?え?高校はK高じゃないの?」
「あー、、、K高に通ってたのは嘘じゃない。
2年までは通ってたけど、3年からは長野の学校に転校した。実は親が離婚して、、、」
久我くんは、
親の離婚で今は祖父母宅に住んでいること、夏休み中は東京の予備校に通うため親戚の家にいたこと、
その時たまたま地元のS田に合コンに誘われたこと、等を私に話してくれた。
久我くんが明るい顔の裏側で時々フッと寂しそうな顔を見せたのは、こんな複雑な家庭環境にあったんだと思った。
「嘘つくつもりは無かったんだけど、、、なんか色々話すのもしんどいし」
「そっか、、、そうなると大学も長野なの?」
「そんな訳ねーだろ!東京の大学受けるよ。受かったら一人暮らしするし」
「そうなんだ。アレ?何学部受けるんだっけ?あの時はまだ教えないとか言ってたけど、もう教えてくれてもいんじゃない?」
「あー、、、本命は医学部」
「え?!!マ、マジで?す、すげーじゃん」
「スゲーんだよ。だから俺は天才だって言ってんじゃん。実はじーちゃんが医者なんだよ。だから俺も医者を目指してんの」
「い、色んな意味でギャップが凄くてビックリしたわ。だったら、こんな所で電話してる場合じゃないじゃん」
「そうなんだよ。そんな場合じゃねーんだよ。だから、、、お互い大学決まったら、また遊ぼうな」
「え?」
なんかまた恥ずかしくなってきた汗
遊ぶってどういう意味で言ってんのかな汗
「やべー、テレカもう無いわ!」
「長野と東京だから減りも早いんだね」
「これさー、上野のイ○ン人から買った偽○テレカだから、減りが早いんだわ」
「久我くん、、、それヤベーヤツじゃん」
「だな。この公衆電話、ぶっ壊れるかもしれないな」
ドンっ!バンっ!
久我くんが公衆電話をぶっ叩いてる音がした
「ちょっとやめてよwww何壊そうとしてんのよwww」
「とりあえず金入れとくか」
ジャラジャラと小銭を入れる音がした
「俺も勉強忙しいからさ、また大学決まったら連絡するよ」
「あ、うん」
「今度はK高の友達連れていく。俺の友達みんなかっけーヤツばっかりだから期待しとけよ」
そっか、遊ぶってみんなでね。みんなでまた遊ぶってことね。
「え?あ、うん。そうだね、また皆で会おう!合コンしよう!」
「じゃ、頑張ろうな」
「うん、頑張ろうね」
「また電話する」
「うん、待ってるね」
電話口でガチャンと切れる音がした
ピッ
私は隣の部屋まで子機を置きに行った
翌日、
S美ーーーーありがとよーーー
「やっと電話来たか。
S田にさ、久我くんにアヤちゃんの電話番号を伝えて欲しいとだけ言っといたの。
なんかS田がワーワー言ってたけど、面倒臭いからそれだけ言って切ったやったわ。
それにしても良かった。久我くんから電話来て良かったね、アヤちゃん」
(実はこの時、S美が私の番号をS田に教えたおかげでS田からも電話が来た。
「アヤちゃーん、久我とやるんなら俺にも一発やらせてよ」と言われて、この世にはこんなゲス人間がいるんだと思ったw)
それから数ヶ月、私は久我くんの事は一旦忘れて、また勉強に没頭した。
1995年2月半ば
私は結局4大が全落ちして、名前だけがいい短大に決まった。
進路が決まり毎日のように遊び歩いていた3月の始め頃、それまですっかり忘れていた久我くんから電話が来た。
調子のいい私は、
「待ってたよー!どうだった?」
すると久我くんは、
「医学部はダメだった」
「そっか、、、」
「一応滑り止めの歯学部が受かったから、とりあえずそっちに行くことにした。アヤはどうだった?」
また呼び捨て
まぁ、いいかw
「私は4大はダメで○○短大」
「そっか。おめでとう」
「ありがと。でも短大だよ、、、」
「○○短大なら3年から編入出来んじゃねーの?4大に編入すりゃいいじゃん。俺もそのつもりで歯学部入るし」
「え?そんなこと出来るの?」
それから暫く進路の話をした。
久我くんは、本当は浪人して来年医学部を受け直したいけど、それだと東京で一人暮らしが出来ないから、とりあえず歯学部に通うことにしたと言っていた。そして、
「卒業式終わったらすぐに東京行くからさ、合コンいつにしよっか」
私たちは合コンの日程を決めるために、それから数日かけて電話のやり取りをした。
そして、ついに私たちは再会を果たすのだった。
まさかこれが、生涯忘れられない「伝説の合コン」になるなんて、その時は知るよしもなかった。
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