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阿修羅のごとく

Netflix見放題。
向田邦子原作、是枝裕和監督。

向田邦子さんといえば「食エッセイ」だ。
ずっと料理研究家だと思っていたが、「脚本家、小説家、エッセイスト」という肩書きらしい。

向田邦子さん


3話まで見て、あまりに面白かったので書籍も並行して読んだ。

以下、主要登場人物と超絶ネタバレ。
年齢は原作(向田邦子さんの脚本を小説化したもの)から抜粋。



長女:綱子(つなこ)45歳   演:宮沢りえ
力強い字面の名前とは裏腹に、細身で儚げな外見。4姉妹の中で一番エ◻︎い。
4人の中で女性として憧れるのは誰?と聞かれたら、間違いなく綱子を挙げる。
原作にも「綱子ねえさんって絞ったらたくさん水分が出てきそうヨね」みたいなことを妹たちから言われていた。
生け花講師として働いており、アルバイト先の高級料亭の主人と不倫中。不倫相手の妻は夏川結衣さん。

二女:巻子(まきこ)40歳  演:尾野真千子
2人の子を持つ専業主婦。郊外の戸建てに住んでいる。夫(綾鷹)はおそらく銀行員。
母や姉、友人にしたいのは誰?と聞かれたらこの人だ。色々口うるさいにせよ頼りになる。姉妹の急なケガ、病気の際に駆けつけているのはいつもこの人。

原作かドラマかは忘れたが、姉妹の緊急時に電話で呼び出された時、磯部焼きを何口か頬張ってから家を飛び出して行った
いくら緊急事態だろうと、お腹が空いてたら途中で倒れちゃうかもしれないからね。「女は強し」って感じの表現。

三女:滝子(たきこ)31歳  演:蒼井優
独身。港区の図書館で働いている。瓶底メガネみたいなのをかけていて、洒落っ気と女らしさに欠ける設定。
のどちんこの奥に重点を置くような発声で早口で喋る。昭和感が出ていた。

四女:咲子(さきこ)25歳  演:広瀬すず
都内のレストランでウェイトレスとして働いている。
制服がめちゃくちゃ可愛い。人形みたいだった。

原作ではなんとなく軽んじられていて、いまいち感情移入できなかった人物。
漫画でも小説でも「作者のお気に入り」と「そうでない人」がなんとなく分かるが、咲子は明らかに「そうでない人」の扱い。
ここでは語らないが、是枝監督のお気に入りなのでNetflixドラマでは咲子(とその彼氏)のシーンが長め。ちょっと冗長。

1  綱子のこと

アルバイト先の高級料亭の主人と不倫している。綱子も男も脇が甘いので、鼻が効く妻(夏川結衣さん)にバレる。

原作でもドラマでも不思議だったのが、夫が不倫していると分かった際に妻が激昂することだ。

不倫がバレる前、夏川結衣さんは綱子の生けている花を見て「色気があってすてき。先生に頼んでよかったわ」とかなんとか言っている。

危機回避能力のこと
夏川さんは綱子の腕に惚れ込んで仕事を頼んでいたようだが、家に宮沢りえを入れるのであれば「夫が不倫する」ことを覚悟する必要があると思った。
綱子が夫を誘惑するのではなく、夫が勝手に綱子のことを好きになっちゃう可能性のことだ。
つまり、途中まで夏川結衣さん演じる妻のことを
「女遊びも芸の肥やしよオホホホホ」というタイプの妻だと思っていた。

それが、夫と綱子の関係がハッキリしてからは
・綱子の家に突撃する
・綱子の家の看板に落書きをする
という幼稚さ。

いや幼稚ではないんだけど。もっと、「どうせ私のところに帰らざるを得ないんだから、外ではお好きにすればいいわ」的な、鷹揚な妻の方がしっくりくる。

繰り返しになるが、綱子みたいなエ⚪︎い女性が頻繁に家に出入りするのであれば、その夫が綱子に惚れてしまうことを覚悟しなければいけない。
どうしても綱子の技術を店に置きたいのであれば不倫は目をつぶる必要があるし、不倫されるのが嫌なら綱子を雇うのは諦めるべきだ

不倫擁護ではなく危機管理の話。
避けられるトラブルはあらかじめ避けるべきだ。

それに、夫が不倫したにせよ、あの料亭はおそらく妻の実家から受け継いだもので、経営の実権は間違いなく妻が握っている。家を追い出されたら夫はただの無職男だ。
あの男が全てを捨てて綱子の元に走るとは思えない。それを一番分かっているのは妻のはずだが、どうして。

2  巻子のこと

夫(本木雅弘さん)は不倫をしている。原作では明確にされていたが、赤木啓子とは別の女性だ。

これも不倫擁護みたいになってしまうのだけれど、「昭和の不倫」は「火遊び」であり「いずれ妻の元に帰る」ものであることが分かる。
高度成長期にバリバリと働き、都内に家を建て、妻と2人の子を養う。「男は甲斐性」と当たり前のように言われている時代で、しかも、妻は4人姉妹+父のトラブルを次々と家に持ち込んでくる。内心面倒臭かっただろうが、その姉妹たちが美人だったこともあり(?)ニコニコと仲裁役を買って出る。

立派くね?

いや本当に不倫擁護とかじゃなくて。
昭和の時代、仕事量も多くて土地や家も都内なら中々に高価で、嫁をパートに出すとか子供を外に預けるとかは「男としての恥」だった時代に。

だから不倫して良いってわけじゃないけど、なんらかの息抜きがないと過労死するんじゃないかと思う。今とは時代背景が違う。

話はズレるが、妻に家事育児全てを押し付け、もちろん正社員として働かせ、自分は不倫の果てに離婚、そして再婚する男の人(親権は当然の如く放棄)、クソダサいよね。草。

3 滝子のこと

一番感情移入できたのはこの人。おそらく向田邦子さんのお気に入りでもある。

終盤、咲子を恐喝した男に対峙するのだけど、Netflix版の流れは滝子らしくなかった。滝子ならもっと論理的に冷静に、的確に男にダメージを与えると思うんだ。あの責め方なら巻子の方が相応しい。

原作は「うちの主人ね、興信所に勤めてんの。あんたの身許調べて、あんたの住んでる社会で、顔上げて生きてくことが出来ないようにしてみせるわよ」と言ってのける。これが致命傷となり、恐喝男は逃げていく。

これが冷静で陰険で頭の良い滝子のやり方だ。原作を読んでスッキリした。

4 咲子のこと

とくになし

本当にない。ウェイトレス姿が可愛かったぐらいで、本当に何も覚えていない。
というか、咲子の夫であるボクサーが魅力的でなかった。顔とかは置いといて、だから何?どこが良いの?という感想しかない。

試合で脳にダメージをくらい、意識障害になった後も何も思うところがなかった。マジで無。



昭和を舞台にしたドロドロした話かと思えば、意外にそうでもなかった。NHKドラマはもっとおどろおどろしかったと言っている人がいたので、是枝監督の手腕で洗練されたドラマに生まれ変わったのだろう。

あと、向田邦子さんの書く脚本は「中流家庭を描いているつもりらしいが、いつのまにか上流家庭の話になっている」ことが特徴らしい。
私がこの話を面白いと思ったのは「昭和の東京の、お金持ちの人たちのやんごとないドラマ」だからだと思う。一切自分に関係ない。ただ傍観者として楽しむだけ。

面白かった。

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