誰かに求められるのはうれしいけれど、自分じゃなくてもいいやと気づく時は切ない
高校生の頃、帰りにTSUTAYAに寄るのが好きだった。
その日もTSUTAYAから帰ろうとしたら、
ちょうどTSUTAYAに来たばかりの中学の同級生とばったり会った。
その男(Aとする)の中学の頃は、
メガネこそ掛けていないものの見た目は典型的なヲタクで、
天パで猫背の男子だった。
TSUTAYAでばったり会った時には、
ヲタク臭さは微塵もなく、ストレートパーマの髪が生え、
そして多少身長が伸びていた。
『2年もあると人は変わるんだなぁ』
と思っていたら連絡先を聞かれたので、
断る理由もないしで教えることにした。
中学の頃のAはおとなしく、
かなりのいじられキャラであった。
だが、マニアックな話が通じることが多く、
おもしれーじゃんと思っていたわたしは
普通にAとの会話を楽しんでいた。
あの時のAは人に連絡先を聞けるようなタイプじゃなかったと思う。
少しオドオドとしていて、
クラスの強めな男子に強引なイジリを受けていた。
それから2年。
目の前にいるAは何もかもが変わったように見える。
「なんか変わったよね」
わたしが言うとAはうれしそうだった。
「わかる?
縮毛矯正したし、猫背を治しに整骨院に通ったら身長が伸びだしたんだ!」
彼は色んなものから解き放たれたんだなぁ、
良かったなぁと勝手に思った。
去り際に
「俺、お前に言いたいことがあるんだ」
と言って颯爽と帰っていったAに、
『お前TSUTAYAに用事無かったんかい!』
と思いつつ、
『絶対告白されるパターンのやつじゃん」
と感じていた。
その日電話で、
実は中学の頃からわたしのことが好きだったこと、
今日会えて運命だと思ったこと、
付き合って欲しいことを伝えられた。
ふーん、それって結構うれしいかもしれんわ。
中学の頃のAに告白されてもきっと断っていたと思う。
だけど、その日会ったAは昔より自信があって、
猫背も伸びて、
とてもわかりやすく「成長」「コンプレックスの解消」というものをこの目で見た気がしていた。
Aはこれからどんな男性になっていくのだろうか。
とても、興味が湧いてきた。
こうしてわたしは100%好奇心でAと付き合うことに決めた。
付き合うとはいっても違う高校同士であり、
勉強や部活などがあってなかなか時間が合わないかに思えた。
が、ちょうどテスト前になったので部活がなくなり、
学校終わりにAの家で勉強することになった。
学校が違うのでテスト範囲も違う。
どうせ勉強にならんやろな、と思いつつ
ちょうど誰もいないらしいAの家に行った。
家に行くと、Aに
「あのベニカが俺の家にいるなんて。
中学の頃の俺に教えてあげたい」
などと言われ、まんざらでもない気持ちになったりした。
わたしはそんなに大した人間じゃないのに。でもうれしいな。
結局勉強はほとんどせず、
今まで話せなかった近況などを話していた。
今まで彼氏がいたことがあるかどうかを強めに根掘り葉掘り聞かれたりしたので、
聞きたいんだなぁと思って包み隠さず答えたりした。
そのあとはなぜか、彼ご執心らしいホリ〇モンについて熱く語られたりした。
そうこうしているうちに、
親御さんが帰ってくる時間が近づいてきた。
別に悪いことをしているわけではないから会っても構わなかったが、
付き合って日が浅いのでさすがにちょっと荷が重い。
わたしは外面が良いので対応はできるだろうが、
Aのことをめちゃくちゃ好き!という段階ではなかったので、
めんどくさいという気持ちの方が強かった。
というわけでほとんど勉強はできなかったが、帰ることにした。
「じゃあ、そろそろ帰るね」
「また来いよ」
なんてやりとりをして。
彼の家の玄関を出て、彼の方を振り返ると
彼が
「肩にゴミがついているよ」
と言った。
濃い目の色のセーラー服、ゴミがついていたらすぐわかるはず。
「えっどこ?」
わたしがそう言いながら肩を見ると何もついていない。
顔を前に戻したタイミングで、彼に抱きしめられた。
わたしは突然の展開に驚いた。
ゴミはついてなかったんかい!嘘なんかい!
っていうか親が帰ってくる時間になったからわたしは帰るのに、
息子が玄関前(外)で女抱きしめてるのはまずくない???
見つけやすさ倍増じゃん!
これ近所の人とか見てたらどうするの?
わたしの顔、覚えられたらどうしよう???
それならまだ家の中で勉強してて挨拶した方が好感度高いじゃん!
ほら、わたし進学校の制服着てるしさ…。
とりあえず、帰らせてくれ…!!!!
心の中で大絶叫であったが、彼はわたしをしっかり抱きしめたまま離さない。
そして精一杯ためた後、彼は話し始めた。
「俺は、お前が俺と会っていない間、何をしてても気にしないから」
なんだか突然の発言であった。
わたしが浮気しそうにでも見えたのであろうか?
わたしは思った。
「こいつたぶんドラマ大好きやん」と。
突然の展開と返事に困っていたらAはそのまま語り出した。
「元彼と会っていても、何をしていても、俺は別にいいから」
?????
元彼とはだいぶ前にわたしから別れたってさっき言ったんだが???
未練なんかないんだが????
Aの頭の中では「彼女という存在は元彼と会うもの」という定義だったんだろうか。
っていうかお笑い番組しか見ていなかったわたしにこの展開はちょっと辛いものがある。
こういう時の正解のパターンがわからん。
だけど、
「なんで浮気する前提やねん!!!」
って突っ込んだらダメなことくらいはわかる。
『わたし、元彼となんか会わないわ…!』
とか言った方がよかったのかもしれんが、
元彼とは部活が一緒だったので、別れた後も部活という意味ではめちゃくちゃ毎日会っていた。
あーもーなんて言ったらいいかまじでわからん。
悩むわたしをよそに、Aは語り続けた。
「どこかへ行っていても、俺のところに帰ってきてくれたらそれでいいから」
もう展開に全然ついていけなくなってきた。
A、主人公じゃん。
わたしはヒロインなんだろうか。
荷が重いパート2である。
っていうかなんでわたしが外で浮気のようなことを色々する前提なんだろうか??
NTR属性持ちなのかな??
もしかしてそれがご希望なのか????
というかここ数時間で、
どこかへ行っても戻ってくるかのような関係を築けた気は全然しなかったんだけど。
近況とホリ〇モンの話しかしてないじゃん。
愛とか語り合ってないじゃん。
ホリ〇モンへの愛は感じたけど。
色々と考えていたら、ふと疑問が沸いたので聞いてみた。
「わたしがどこかへ行って、それでAの元に帰ってこなかったらどうするの?」
Aは抱きしめていた腕をゆるめ、わたしの顔を見て微笑んだ。
「いいや、絶対、帰ってくる。絶対。」
噛み締めるようにそう言って彼は、わたしをさらに強く抱きしめた。
そしてわたしは━━
その日以降、現在に至るまで彼のところへ帰ってはいない。
さすがにナルシストが過ぎる、手に負えん…。
そう思って後日、会わずにお別れの連絡をした。
会ったらまたA劇場に出演させられると思うと、プレッシャーとストレスでハゲそうだったから会えなかった。
申し訳ないとは思うが、
思春期の女子高生には毛髪の方が大事だった。
あまりにも早い別れに友人共には
「なんで別れたの???」
と聞かれまくったが、劇場でヒロインを務めていたことは言えなかった。
会わないまま別れる分、できるだけ丁寧に対応したつもりだったが、
悲劇の主人公からはしばらく連絡がきていた。
めちゃくちゃ申し訳ないなぁと思ってはいたのだが、
最終的には「お願いだから最後に一発やらせてくれ」のような内容に変わっていったので申し訳なさも薄れた。
ストーリーの路線変更が過ぎる。
とっても自分勝手なプレイをされそうな気がして、
絶対に嫌だと思ったのでブロックした。
しばらくの間、ブロックしてもブロックしてもどこからか連絡先を手に入れ出演依頼がきていたが、
さすがにもうヒロイン役は見つかっていると思う。
今ではどこかで幸せ劇場を開幕していてほしいな、と思う。
全然、見たくはないけど。