10年の節目に。
「好きやねん。俺と付き合ってください」
彼から突然そんなことを言われたのが、ちょうど10年前の今日だった。
あの日のことを、わたしは今もよく覚えている。
高校3年生、卒業式も終えた3月末。同じ予備校に通い、同じ第一志望の大学にふたりして落ちたわたしたち。春からわたしは浪人生として予備校に、彼は地方の大学へ進学することが決まっていた。
小学校卒業と同時に離れてから、特に関わりもなかったただのクラスメイトの彼。高3の冬に予備校の自習室で偶然再会して、「久しぶりやなあ」「勉強がんばろなぁ」とお互いを励まし合いながら過ごした数ヶ月。
短い期間だったけれど、同じ予備校で、同じ大学を目指して、一緒に勉強した時間は、本当に楽しかった。いや、頼もしかった、の方が近いのかもしれない。勉強中はいつも一人きりで、自分との戦いのような気持ちだったから、仲間が出来たみたいな気がして嬉しかった。そんな楽しくも大変だった期間はあっという間に過ぎ去ってしまったのだけれど。
地元を離れて進学する彼が、地元に残って浪人するという選択をしたわたしに、今まで使っていた参考書やら問題集やらをわざわざ家まで届けに来てくれた。
「向こう行っても頑張ってな」「わたし浪人やけど勉強頑張るわ」なんて、なんでもない立ち話をしながら、きっとここでさようならをしたら、もう彼と会うことはないんだと思っていた。このいつもの会話も、もうできなくなってしまうんだろうな、寂しいな、なんて。
でも、春は出会いと別れの季節。ちゃんと大学に合格した彼を笑顔でいってらっしゃいすべきだと思った。
日も暮れてきたし、長々と立ち話してたって仕方がないから、「ほんなら、そろそろ帰るわ!ありがとうな!」と明るくバイバイしてその場を立ち去ろうとした時、「ちょっと待って!」と呼び止められて伝えられたのが、好きだという、冒頭のその言葉だった。
2011年3月26日。帰ろうとするわたしを呼び止められたあの日から、わたしたちのお付き合いはスタートした。
付き合ってすぐに地方に進学した彼とは遠距離恋愛に。わたしは浪人を経て地元大阪の大学に進学。彼は地方の大学院にそのまま進学し、わたしはその間に社会人になって東京に拠点を移した。彼は大学院を卒業し、京都の企業に就職した。
遠距離の終わりが見えないまま月日は流れ、遠距離のまま入籍し、夫婦になった。そしてコロナの影響でわたしの大阪への転勤が決まり、長年続いた遠距離恋愛がようやく終った。やっと一緒に暮らし始めたのは、去年の7月のことだった。
この10年間、ほとんど離れて暮らしてきた。遠距離だったから、一緒にいられる時間がすごく貴重で大切なものなんだってことに気づいた。色んな荒波を何度も乗り越える度に、お互いが少しずつ強くなっていた。相手に依存するんじゃなくて、お互いが自由に好きなことに熱中できるくらいの程よい距離感がわたしたちにはベストなんだということも分かった。何度かお別れと復縁を繰り返して、やっぱり自分たちにはお互いが必要なのだということにも気が付いた。
一緒に暮らし始めて、今までと勝手が違うことに正直戸惑った。家事の分担、ご飯を食べる時間、洗濯の頻度、寝る時間、全部が今まで違うことだらけで、なかなか生活が自分に馴染まなかった。だけど、彼と一緒にいられることが、彼と同じ家に帰ることができることが、何よりも嬉しかった。
10年間色々あったけれど、わたしは彼と一緒にいられて本当によかったと思っている。
彼と結婚して夫婦になれて、本当によかったと思っている。
付き合い始めたあの時は高校生の18歳だったけれど、気が付けばわたしたちも28歳のいい大人になっていた。いい大人だけれど、わたしが彼のことが好きだという気持ちは、高校生のあの頃と変わっていない。
わたしは毎晩、寝る前に彼に伝えている。「なぁなぁ、好きやで!」って。
彼はいつもそっけなく「知ってる」って返してくるけど、いつもめげずに気持ちを伝える。
今がとっても幸せだと思うから、どうかこの先も、ずっと彼のことが好きでいられることが出来るように。自分の気持ちを口に出す事で、わたし自身がその言葉を再認識する。彼のことが好きじゃなくなってしまう自分のことが怖いから、そうならないように。きっと、わざわざそんなことをしなくたって、わたしは彼のことが大好きなんだろうけどさ。
これから先、何が待ち受けているかわからない。きっと、うまくいくことばっかりじゃないし、辛いことだってしんどいことだってたくさんあると思う。どうしようもないくらいの大喧嘩をすることだってあるかもしれないし、もしかしたらまた遠距離になってしまうことだってあるかもしれない。先のことなんてわからないけれど、でも、これから先もずっと、わたしは彼の隣にいられたらいいなって思う。彼と人生を共にしたいなって思う。
彼に幸せにしてもらおうだなんて思わない。わたしは彼と一緒に、幸せな毎日を自分たちの手で作っていきたい。
10年間、本当にありがとう。
そして、これからもどうぞよろしく。
一緒に仲良く、歳とっていこうね。
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