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マッチングアプリ初デートでおしっこもらしたら結婚してた

これから書くことは私の股間、いや沽券に関わる。


2020年3月、コロナ禍直前。
私は付き合っていた人となんか合わなくて別れた。
風邪のときは家まで食糧を持ってきてくれるほど優しかったけど、LINEのおじさん構文がどうしても無理だった。そんなに年離れてなかったのに。

当時27歳、そろそろ結婚したいお年頃の私は、マッチングアプリをインストールして婚活を始めた。

それまでにも何度もマッチングアプリで彼氏を作ってきたから、登録はお手のもの。哀愁が漂う。
私は「発達障害」というセンシティブ事項を抱えた人間だから、のちのちトラブらないよう、プロフィール文に「持病があります」と明記してジャブを打った。

ピコン。
早速スマホが鳴る。
「Tさんからいいねが来ました」

確認すると、なんと同郷の東北人だった。
そのとき住んでいた大阪ではレアキャラだ。

しかし、4つも年下。大卒と書いているからまだ新卒1年目のはず。ある程度社会人経験を積んでクタクタになった限界OLの私、若さにビビる。プロフィール写真がプリクラで、ようわからんけどなんとなくイケメン風だ。身長は169cmと書いてある。普通マチアプの男性は身長で足切りされないよう、170cmと盛るところではないだろうか。それまで謎に身長を175cm以上に絞り男性たちを検索してことごとく失敗を重ねていたため、ちょうど「身長にこだわるのをやめるべきではないか」と考え始めていたタイミングだった。身長盛らない人って、素直で逆にいいかもしれない。てか「持病があります」の一文は読んでくれたのだろうか。読んでくれた上で「いいね」してくれたのなら、きっといい人に違いない。いや絶対そう、たぶん。

私は「いいね」を返した。
マッチング成立。




アプリでメッセージのやりとりを始めて、すぐに会ってみることになった。
待ち合わせ場所は、大阪人なら誰もが知る梅田のビックマン前。目的地はカフェ。お昼のデートって安心する。強引にホテルに連れ込まれる危険性が低いから。

ピンクのニットにグレーチェックのタイトスカート、黒のショートブーツに紺のロングコートを合わせて、いざ出陣。

少し早めに着いて隣の紀伊國屋書店を軽く物色したあと、待ち合わせの5分ぐらい前にビックマン前に戻る。
すると、「着きました。どんな服装ですか?」のメッセージ。
返事を打ちつつ、それっぽい人を探す。もしかして、アレ?

プリクラと顔が違ってイケメンって感じではなかったけど、髪の毛ツヤッツヤのサラッサラ、お肌はピチピチ、なんといっても丸顔がかわいらしい。
本当に若い子が来ちゃった!
え、私今からこの子とデートしていいの?

またしても彼の若さに怯えるアラサー女。
とりあえず、予定していたカフェに向かう。




目的のカフェは茶の間みたいにくつろぎながらランチを頂けることで有名だった。混み合う店内でお互いポツポツと「同じ県出身ですよね?どこなんですか?」「あそこか〜◯◯が有名ですよね〜」なんて話した。
正直私が陰キャすぎて会話がめちゃくちゃ盛り上がるとかはなかったが、どうやら気に入られたらしく「店を変えよう」という話になった。


2軒目は、ビルの高層階にある美味しいケーキと紅茶が頂けるカフェに行った。それぞれ好きなケーキとドリンクを注文して、「美味しいですね〜」「そうですね〜」なんてとりとめのない会話をした。

怖いのはここからだ。

店員さんが注文を間違えて、もう一杯紅茶を持ってきた。しかもそこは紅茶を売りにしているだけあって、ティーポットで出てくるのだ。
「あれ?これ頼んだっけ」「まあいいや、店員さん忙しそうだし、飲んじゃえ〜」と、私はぐびぐび紅茶を飲み干してしまった。

お店を出て、「さすがにお手洗い行きたいなぁ」と思い始めたころにはすでに時遅し。
突如、猛烈な尿意が私を襲う。

初対面だし、「年上なんだから大人のお姉さんを演じなきゃ」とかクソしょーもない見栄があったのもよくなかった。
私は余裕ぶちかまして、「ごめん、お手洗い行ってくるわ」と言って悠然とトイレ探しの旅に出た。この時点で膀胱は破裂寸前だ。

すぐにトイレは見つかったものの、なんせここは大都会梅田。女子トイレには5〜6人の列ができていた。
「ま、まあ、こんぐらいいけるっしょ」とこの期に及んで余裕ぶる私。




しかし、神は非情だ。
いるかどうかさえ怪しい。
残り3人のところで、私の膀胱はとうとう限界突破した。

タイツに包まれた脚を伝う、生温かい液体。
「えっ」と誰かの声が聞こえる。
辺り一面、黄色い海になった。
全部出た。

それでもなお強がる私。「何か問題でも?」という顔を作って平然と列に並び続ける。
ようやく順番が回ってきたころには、すでに下半身が冷え始めていた。びしょ濡れで気持ち悪い。個室に入って慌ててパンツを下ろすと、まだ出た。いやまだこんなに膀胱内に残っとったんかい。先ほど「全部出た」と書いたが嘘。




さて、これからどうする。
なぜかめちゃくちゃ気に入られたっぽくて、この後も夜ごはんを食べに行く話になっていた。
私も彼のおっとりした雰囲気と、年齢のわりに大人びた喋り方に魅力を感じ始めていた。
独身女27歳、このチャンスを逃すべからず。

私は膀胱、いや心に誓った。
「黙っておこう☆」


トイレから出て彼の元に戻ると、「遅かったね、大丈夫?混んでたの?」と心配してくれた。
あああもうすでに心が痛い。
「そうそう、混んでたの」と一応事実を伝える。一番大事なことは黙ってるくせに。詐欺師の手法ですね、これ。


土曜夜の梅田はどこも激混み。
いろいろ調べて、「じゃあ牛タン食べに行こうか」ということになった。
でもけっこう歩くなぁ、と思っていたら、彼が言った。
「手、つないでもいいですか」

アラサー女、心を撃ち抜かれる。
「はい!」と答えて握ったその手は、おしっことは比べものにならないぐらい温かかった。いや比較対象が失礼。


そして私は奇跡を起こす。
なんと歩く距離が長かったのが功を奏して、下半身の服が乾いた!!!
牛タン屋に入るころにはもうどうやったってバレないぐらいになっていた。しかも冬だから、万が一シミになっていてもコートでごまかせる。んなアホな。

とりあえずほっかほかの牛タンシチュー食って、その日は解散した。ていうか私たち食いすぎ。

……トイレでの事件は墓場まで持っていこう。
そう固く、心に誓った。




だが私は、羽より口が軽いのだ。
なんやかんやあって付き合うことになり、GWに彼の家で飲んでベロベロになって、流れで言ってしまった。
「私はじめて会った日、おしっこもらしたんだよね」
普通に引くわ。ありえねーこの女。


しかし、彼の反応は意外なものだった。
「え、大丈夫だったの?すぐ言ってくれればよかったのに。心配になるよ」

アラサー女、またしてもキュン。
あーこの人と付き合ってよかった。ていうか人間ができすぎてるぞこの男。器が海よりデカい。




それからしばらくして。
その年の12月にプロポーズを受けて、翌年に籍を入れた。
もうこの人しかいないな、私はそう思えたから。
これぞおしっ婚。やめろ、台無しだ。




今月結婚して3年を迎えた。
いろいろ波乱はありつつも、ずーっと夫婦仲良くやっている。
ワンチャンこの記事がバレて離婚されないかビビり散らかしながら書いてるけど、たぶんうちの夫なら大丈夫と信じている。だって初対面の女のおもらしに引かない男だよ?どんだけ心広いんだよ。
だからと言って何してもいいわけじゃない。今後は一生もらしたくない。いや絶対そこじゃないけど。お互い感謝とリスペクトを忘れないようにしたいんだけど。


こんな女を嫁にもらってくれてありがとう、夫。
これからも末永くよろしくお願いします。






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