どういうわけか身の丈に合わないトップクラスの世界に放り込まれた時の話
このツイートを見て、思い出した話があるので少し(このツイートの趣旨と合致している気はしないが)。
それは大学受験生時代、センター試験も終わって二次試験に向けた最後の追い込み時期に入ろうとしていた時のこと。
いつものように予備校に行ったら、化学担当の講師がやってきて、一言私に告げた。
「水撫月さん、次の冬期講習の化学は一番上のクラスいこうか」
「え?」と、思った。
当時の私は確かに某国立大を目指していた。そして化学は確かに得意科目だったが、クラスは常に上から二番目だった。それでなんとかついていけるレベルだったからだ。
しかし講師は何を思ったのか、私をもう一つ上のクラスに半ば強制的に放り込んだのである。
「水撫月さんならいけるって!」
という何の根拠もないとしか思えない発言と共にトップクラスへと送り出されたのだが(ちなみにそのクラスも講師は同じであった)、当然のごとく講義内容は難解すぎてちんぷんかんぷんである。ノートは取るが、まともに理解できやしない。
周りはそれこそ東大理Ⅲを目指すような猛者ばかり。そのレベルには到底及ばない(第一志望はもっと下だった)私には、そもそもついていけるはずもなかったのだ。
早く元のクラスに帰りたい。
正直それしか考えていなかった。
幸い冬期講習はごく短期間で終わり、ほどなくして私は元のクラスに戻された。その時は大変ほっとしたものである。
やはり講義は身の丈に合った難易度のものであるべきだとも思った。
その時講師がいったい何を思って私にトップクラスの講義を受けさせたのかは、今もよくわからない。
そして、私がその経験から何を学んだのかも、結局よくわからぬままだった。元のクラスに戻ったからといって、その講義の難易度が格段に下がったようには感じなかったからだ(というかほぼ変化なしだった)。
ただ、ひとつだけ自信になったことがあった。
私のセンター試験の成績が、そのトップクラスにいた東大志望の生徒たちよりもはるかに高かったと知ったことだ。
無論、だからといって私の方が優秀というわけでは決してない。
彼らの志望校では二次試験の方が合否に影響する割合が高く、センター試験はそこまで重要視されない。だからそこまでセンター試験に力を入れる必要がない。彼らはセンター試験は必要最低限の得点さえ稼げていれば十分だったのだ。
しかし私は二次試験の模試成績にかなりの難があったため、センター試験での得点が大きく影響する学部を第一志望として選んでいた。だから、センター試験で高得点をたたき出すことが必須だったのだ。
その結果、センター試験に全力を注いだ私の方が成績がよかったというだけに過ぎない。
しかしそれでも、自信にはなった。
センター試験の自己採点をした時、狙い通りの好成績であったことは把握していた。
そして、それが東大を狙うレベルの生徒たちにも勝るものだと知ったことで、確かな自信を得たのだった。
その後、私は結局大いに難があるまま受験した二次試験もなんとかクリアし、無事に第一志望に合格することになる。
ここまで考えて、もしかしたらあの時の講師は私に、「それだけセンター試験の成績がよければ第一志望合格できるから」という確信を与えたかったのかもしれないと思った。
だからこそ、自分よりもはるかに優秀な人たちの世界を覗かせたのだろうと。
身の丈に合わないほどハイレベルな世界に踏み出すことで、何かを学べるのかどうかはわからない。
むしろ自分のあまりの未熟さに打ちひしがれるだけかもしれない。
ただ、もしかしたら、一見その世界から得られそうなものとは全く異なるような、それこそひょんなことから不思議な自信を得たりとかは、できるかもしれない。
だからたぶん、たまにはそういう身の丈に合わない世界を覗いてみてもいいのかもしれない。
無理だと思ったらすぐ、引き返したらいいのだから。