【SS】めぐりゆく流砂

ああ。
すべては、幻だった。
私が全てを懸けて為そうとしたことは、何もかも、砂上の楼閣でしかなかったのだ。

指先の、掌の感覚が消えていく。

あれで完成するはずだった。
画竜点睛、完璧に仕上げたと思っていたのに。
嘘のように、全てが無へと帰していく。
私の目の前で、さらさらと崩れ去っていく。

私の為すべきこと、それがアレを完成させること。
最後の役目を任されたのが、私だった。

計画は完璧だった。
シミュレーションも何度もやった。これで間違いないと確信した。
絶対の自信を持って臨んだというのに。

思考も、自負も、砂のように流れ去っていく。
機能停止した頭脳には、こんな絶望も甘美なモノと映るらしい。まったくどうかしている。

さらさら、さらさら。
私が、私だったモノが、流れ崩れていく。

私が私でなくなっていく。

何もかもが消えて、
何もかもが失われて、

——それでも私は生きている。

「……あはは」
自然と笑いがこみ上げてくる。

中身の全てを流れ出させて空っぽになった私には、ありとあらゆるモノを受け入れられる器がある。
そう、全てを失くしてもなお、残されるモノ。

私という器は、消えない。

ふ、と微笑んだ。
アレは終わりなどではない。むしろ、始まりにすぎない。
絶望なんてものは、その前座にすぎない。

微笑みが色を帯びる。湧き上がる衝動に彩られる。
流れ出したはずの砂粒が、再び私を満たしていく。
血が、生きているという実感が、全身を駆け巡っていく。

——さあ、これからだ。

踏みしめた一歩は、私に確かな気概を伝えてくれた。



※原題:「頽れた微笑み」(自作お題サイト「アリスの言霊」より)

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