calm(静か)は、褒め言葉
高校生の頃、アメリカからの留学生が同じクラスにいた。私は、口数が少なくおとなしい生徒で友達も少なく、彼女ともあまり会話した記憶がない。
彼女とは身長が同じくらいで、身長順に並ぶと私、彼女と続いた順番だったり、くじ引きでの席替えでなぜか立て続けに隣同士や前後の席になったりと、気配を感じる位置にいた時間は長かった、かもしれない。でも、ほとんど会話はなかった。
ある時、彼女が私に“you are so calm "と言ってきた。
当時、今でいうところの「陰キャ」(当時は「根暗」と言った)の自分を恥じていた私は、彼女の発言にショックを受けて落ち込んだ。
ホームステイ先の住居も自宅の近所で、仲良くなるチャンスはいっぱいあったはずの彼女は、私とは疎遠なまま一年後に帰国した。
それから数十年。彼女のことはほとんど思い出すこともなかったのだけど。
最近、近所の庭園を散歩して花を眺めていたら、ふと。
"calm"、もしかして、あの時彼女は私を褒めてくれたのでは?
と思った。
私の理想とする心の状態は、こんなイメージ。
大きな湖。
湖面の上で風が吹き、どんなに波が高くなろうと湖の中は音がなく、ゆっくり水が動いている。
日常生活の中で、怒ったり悲しんだり、いらいらして心の表面がゆらゆらと不安定になっても、
心の奥底にはいつも、安寧がある。
そのことを忘れないでいる。
外から傷つけられたり奪われたりはしない、
内面の強さ、力。
それは静かさであり、落ち着き、calmと評していい、私の性質、美点なのではないか。
あの時、彼女が私に伝えたかったことを確かめることはできない。でも、
数十年の時間をかけて彼女から、心のこもったギフトを受け取れた気がした。
人からの言葉に私達は喜んだり悲しんだり怒ったりしているけれど、言葉に込められた意図を100%正しく受け取れることはまれだと思う。
でも、私のもらった"calm"のように長い長い時間をかけて伝わることもあるのではないか。
ただでさえ言葉が少なく、つたない私だが、これからも、伝えることをあきらめずに言葉を紡いでいきたい。