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お母さんたちもやってくる駄菓子屋

  私は子どもの頃4回も引越ししているのに、そのどこにも駄菓子屋があった記憶がない。もともと、子どもの頃の記憶があまりない。何しろ引越しばかりで友達も少なかったし。

今、人生で初めて駄菓子屋のそばに住んでいる。

このあたりは高層住宅が立ち並ぶわりと新しい街で、この街の小学校区は、隣の学校との境を一周しても子どもの足でも30分とかからない小ささだ。校区の中で買い物できる店はコンビニエンスストアと、駄菓子屋を兼ねた婦人服店の2軒だけ。

  店はご夫婦で経営していて、普段は話し好きで美人の奥さんだけが店にいる。

10年以上前まで、この店にあるのは婦人物のブラウスや小物だけで、駄菓子は一つもなかった。花柄のエプロンや授業参観の時に持っていくスリッパだとか、お母さんたちの日常に必要な物が手頃な価格で売られていていた。若いママたちから年配のご婦人までの幅広い女性たちがいつも店を出入りして買い物や、店番の奥さんとおしゃべりする場所だった。

奥さんには男の子がいて、彼が遊ぶために幼児向けのおもちゃが店先に置かれるようになった。そのうちに通りかかった親子連れが店の前でしばらく遊んでいったりするようになった。

実は、その店の男の子と私の娘は同じ年齢・同じ保育園で、私もちょくちょく店内で子どもを遊ばせながら、奥さんと子育ての話をした。数分で到着する自宅まで間に合わない!と、子どものトイレを貸してもらったことだって何度もある。

子どもの小学校入学頃だったと思う。ついに、駄菓子コーナーが婦人小物を押しのけてレジ前に誕生した。小学生は子どもだけでの校区外への外出はできない。放課後になると、子どもたちが店に次々と集まってくるようになった。

  駄菓子屋を始めてからも相変わらず、お店の奥さんは通りかかった顔なじみに「こんにちは!」といつもの笑顔であいさつして話し込んでいる。

婦人服と駄菓子、同時に取り扱っている店はあまりないだろう。

この店は、校区に住む大人にも子どもたちにも、空気みたいに当たり前にある大切な場所だ。

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チハヤ/chihaya
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