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「水曜日が消えた」‥「水曜日は消えない」

 座談会の最後、スクリーンに大きくこの文字が映し出されて、胸熱でした。

 映画館で七回観ました。観れば観るほど発見があって、本当に楽しかった。最初は火曜日くんに寄り添って、次は付箋などの小道具に注目して、一ノ瀬や安藤医師の気持ちを想像して、映像美を堪能して、音楽に浸って、などなど、いろんな視点から鑑賞し尽くしても飽きることがない。なんなんだこれは。

「つじつまが合う」んですよね。細かいところまできちんと作りこまれていて、破綻がない。初回も充分面白かったけど、二度目、三度目と確認していくと、「なるほど、そうだったのか! でもこの部分は?」「おお、ちゃんと描かれているじゃないか! でもこっちはどうだろう」その繰り返し。
 昨今の、何でもかんでも饒舌に説明しちゃう、余計なお世話のドラマとは対極の、語らなさ。潔さ。観客の鑑賞力を信用してくれてありがとう。考える余地をいっぱい与えてくれてありがとう。「初見で伝わらないのは説明不足」とブログで書いてた人がいたけど、それはあまりに思考停止、頭って使わないと錆びるんだよー。

 で。整理も兼ねて、年表(?)を作ってみました。記憶が頼りの作業なので、間違いあったら円盤見たあと直します。(映画未見の方、ネタバレになりますのでご注意あれ)(映画と違う部分もある小説版には、あえて触れていません)

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16年前
 僕、引っ越しの日の交通事故で、脳に損傷を負う。両親は死亡、本人は助かるが人格が七つに分裂してしまう。
(一ノ瀬は、僕も死んだと聞かされる)

数年前
 安藤医師、僕のデータの修正・改竄を始める。

3、4年前?
 一ノ瀬、僕の記事を発見。安藤医師を訪ね、僕の自宅に通うようになる。(大人になってから=社会人になってから、と判断。それから、安藤医師が僕の変化に気づいたより後だろうと)

2020年

5/10 (日) 日曜日、飛魚を釣る。
5/11 (月) 月曜日、女性を自宅に連れ込む。
5/12 (火) 火曜日、通常営業。一ノ瀬来る。
5/13 (水) 水曜日が消える。(夢の中の鳥、7→5)火曜日、瑞野さんに逢う。初めて図書館に行く。水曜日の日記をトレースする。
5/16 (土) 土曜日が消える?(19日に一ノ瀬が「なんか止まってない?」)
5/17 (日) 日曜日が消える。月曜日が魚拓を作る。
5/18 (月) 図書館の瑞野さんから電話がある。月曜日、隠しカメラを仕込む(たぶんこの週かと)。13日の日記に書き足す。ベースの男と一晩過ごす。
5/19 (火) 火曜日、病院で先生達にバレないか緊張する。一ノ瀬来る。
5/20 (水) 火曜日、図書館に行く。一ノ瀬にバレる。瑞野さんとデートの約束をする。
5/22 (金) 金曜日が消える?
5/26 (火) 火曜日、病院で水曜日の映像を借りようとし、失敗する。一ノ瀬とコンビニに行き、工事現場に人形を返す。二人で夜通し映画を観る。
5/27 (水) 火曜日、瑞野さんと映画を観る。
5/28 (木) 木曜日が消える?(翌週、画材がベッド脇に散乱)
6/2 (火) 安藤医師が調査を受ける。主治医が新木医師に替わる。火曜日、水曜日以外の異変に気づき始める。夢の鳥、2羽に減る。
6/3 (水) 火曜日、各曜日の机が並んだ部屋で倒れる。
6/4 (木) 火曜日、木曜日の仕事の電話を取る。水曜日の持っていた切り紙を、瑞野さんに渡す。病院に行こうとし、月曜日と会話する。
6/9 (火) 火曜日が消える。月曜日、病院に行き、安藤医師と会う。自宅で一ノ瀬と話をする。
6/15 (月) 月曜日、承諾書に七人分の署名をして病院に提出する。

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 こうやって書き出すと、月曜日くん視点の物語がめっちゃ観たくなりますね。自分の気持ちに正直で、行動力もある月曜日くん。初めて日曜(土曜かも?)に目覚めたときの驚き。他人と一緒に演奏したときの喜び。報告書や図書館の本を手掛かりにして、他の曜日に何が起こっているかを推理。なんとか自分一人が生き残りたい!と切望する意識下で、他の曜日が消えることに罪悪感もあったんじゃないか。女装あり、女性相手、男性相手のベッドシーンあり。ううむ、特典映像どころか、映画一本できちゃいそうですね(笑)。

 そして、意外なほど一ノ瀬が、火曜日以外に家に来ていないことも分かりました。各曜日の癖をがっつり把握しているくらいだから、それなりに訪問はしてたんだろう。でも、月曜日くんが日、土‥と進出してきたことを、おそらく彼女は知らなかった。会っていたら、気づいたと思うから。

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「元って、どこですか?」

 要所要所に現れる、事故の夢。ある方が、小学生の僕の持ち物が、後の各曜日につながっていると指摘されていて。転校に際して、学校に置いてあった道具を持ち帰っただけとも見えるけど、たしかにそれにしては多いんだよね。

 水曜日←ラケット(スポーツ)
 木曜日←絵の具セット(イラスト)
 金曜日←スコップ・鉢植え(園芸)
 土曜日←将棋盤(ゲーム)
 日曜日←釣り竿(横たわった僕の横に、茶色い袋に入った細長いものがあって。リコーダーじゃないし、勝手に釣り竿認定w)
 月曜日←リコーダー(音楽)

 オリジナルは何曜日か、ではなく、みんな僕なんだ、という視点が一番最初からあったんだなあ。

 新木医師を始めとする医師団は、人格は本来一つ、七つに分かれた状態は異常、という見解だった。安藤医師は、初めは違ったかもしれないが、七人それぞれを大切に思い、残したかった。一ノ瀬は、火曜日くんがオリジナルに思えた。そして、月曜日くんは七人で生きる道を選んだ。

 6月4日の木曜、火曜日くんが病院に行こうとするのを阻止。その翌日からの月曜日くんの日々を想像すると、けっこう胸が痛いです。どんな顔して土曜日くんとのボードゲームを片付けた? いつ一ノ瀬が来てもいいように、自分以外の曜日のふりをして過ごしてた? 6月9日火曜の朝、目覚めたときの顔は、やったぜ俺が残ったぞ!という歓喜とはほど遠かった。新木医師らにはいないものとして扱われ、でも安藤医師は気づいてくれて。「今の君が一番いいと思う道を」と云ってくれて。

 そして、一ノ瀬です。
 ブタちゃんの防犯ブザーが事故の原因になったことを、彼女がいつから、そしてどの程度自覚していたか定かでないのですが。
 死んだあの子が戻ってきた。奇跡です(って別に生き返ったわけじゃなく、情報が正しく伝わっていなかっただけなんだけど)。彼女が「理解して、ずっとそばにいる友達に」なろうとしたその決意は、並々ならぬものだったに違いない。好きだ、ただ会いたかっただけという気持ちも本当、むしろ違ってる方が良かった(過去のことを忘れたまま)という気持ちも本当。そっか、スケッチブックにブタちゃんの絵を見つけても、これわたしがあげたんだよなんて絶対云えないよねえ。

 6月9日、一ノ瀬は久しぶりに僕の家を訪れます。僕の対応にあれっとなり、部屋の様子が違ってて驚き、金曜のカップを「これ木曜のだけど」と云っても気づかない相手を見て、火曜日くんが消えてしまったことを知る。知って一瞬涙声になるんだけど、「協力するよ」と云う。
 あれ、一人になったと話すつもりなら、病院は過去にイザコザあったらしいからともかく、一ノ瀬の前では月曜日くん本人の姿でいいんじゃね? なんで火曜日くんのふりをしたのか。

 そこで出てくるのが、火曜日くんが「僕が消えたらさあ‥」の後に何を云ったのか、です。あくまで自分の想像ですが、事故のことを全部思い出して、その上で「一ノ瀬のせいじゃない」「不便だけど不幸だったわけじゃない」、これは火曜日くんの言葉だったんじゃないか。月曜日くんはそれを火曜日くんとして一ノ瀬に伝えようとしたのではないか。

 どの曜日にとっても、一ノ瀬は得がたい友人だったはず。その彼女に「このままずっと火曜日のままだったらって。それがどんなにひどくて勝手なことなのか分かってたはずなのに」と云われて(しかも彼女、目の前にいるのが火曜日くんじゃないって知ってて云ってますからね)、これはキツかったね、月曜日くん。ちなみに最後、一ノ瀬は「誰?」と訊きはしますが、直前に首の後ろ搔く動作を見てるから、月曜日くんだってお見通しだと思う。

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 長々と失礼しました(汗)。(しかも3回にもわたって)
 他にも、瑞野さんと映画観た後に突然走り去るところ、シンデレラみたいだったなあとか、半分プリンって何とか、とにかくキリがないのでいったん終わりにします。
 それにしても、顔つきやしゃべり方だけでなく、卓球台をよいしょよいしょと組み立てる火曜日くんと、ウッドベース弾く月曜日くん、絶対背丈も違うよね(笑)。中村倫也、おそるべし。
 吉野監督の次回作、楽しみにしてます。ソフト化、首を長くして待ってます。ありがとうございました。

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