七つの子

私はカラスが好きだ。
 以前、職場の近所にいるカラスに顔を覚えられ、子を連れて来られたことがある。いけないと知りつつ、職場のバルコニーに来るカラスに差し入れとして、菓子を分け与えていた。そのカラスが春になって子を連れてきたのだ。
 子は羽ばたくのもおぼつかない、かわいげのない声で鳴く。目は真ん丸で真っ赤な口を開け、母親に餌を口移しされる様子は「かわいい七つの子があるからよ」と歌われた童謡「七つの子」を想起させた。
 一方、札幌の都心での営巣は容易ではない。テレビや新聞で毎年取り上げられるように、道行く人はみな、子を狙う外敵よろしく、カラスが攻撃してくるケースがある。
 私自身は両手を挙げて立ち止まらずに通り過ぎるか、迂回するようにしており、さほどストレスを感じない。でも、そういう方ばかりではないようで、行政にクレームを入れ、生まれたひなを「放鳥」と称し、川原に廃棄する例もあると聞く。
 農業や酪農などで実害のある方もいらっしゃるだろう。カラスの肩ばかり持つわけにはいかないが、カラスと共存できなくなった現代人の不寛容さが、昨今のあらゆる事件や問題につながっているように思えてならない。
 3月に亡くなったタレントの志村けんさんが、「七つの子」の替え歌で「カラスなぜ鳴くの、カラスの勝手でしょ」と歌った昭和ははるか遠く、子を守れない親ガラスが「泣いている」ようにわたしには思える。


北海道新聞 朝の食卓 2020年8月4日掲載


アヤコフスキー@札幌。ディレクター・デザイナー。Salon de Ayakovskyやってます。クロエとモワレの下僕。なるようになる。リトルプレス「北海道と京都とその界隈」で連載中 http://switch-off-on.co.jp