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Are you lost?

若い頃、砂漠で死にたいと思っていた頃があった。鳥取にすら行ったことのない私は砂漠をこの目で見たことはないのに、何故そんな風に思っていたのかわからない。自殺願望があったわけでもなく、脳内にある砂漠への憧れみたいな気持ちと、命の源である水が絶たれた世界に「死」をイメージしてそんな歪んだ妄想に繋がったのかもしれない。むろん今はそんなことは思っていない、中二病みたいなものだったのだろう。

そんな私にとって、その「砂漠で死にたい欲」を満たしてくれた映画がベルナルト・ベルトリッチの「シェルタリング・スカイ」だった。冒頭流れるセピア色のニューヨーク・マンハッタンの記録映像、大戦に勝ち浮かれたアメリカの豊かな暮らしぶり、摩天楼を映し出す。添えられる音楽はヴィブラフォン奏者ライオネル・ハンプトンの「ミッドナイト・サン」だ。この艶っぽい音とニューヨークの光景が主人公である芸術家夫婦の豊かな生活を感じさせ、愛を確かめ合うためにに行ったはずのアフリカで夫婦に訪れる過酷な運命とのコントラストを際立たせた。

この映画のサウンドトラックを担当したのは坂本龍一だ。わたしは子供の頃にYMOの洗礼をど真ん中で受けた世代で、ピアノを習っていた私にとってはシンセサイザーを操り聞いたことのないサウンドを生み出す彼らの姿はもはや「神」に等しい存在であった。YMOの話は長くなるのでここでは割愛させていただくが、こと坂本龍一の編み出すメロディ,サウンドには並々ならぬ愛着があり、また、彼の音楽そのものが映像を想起させるイマジネーションに溢れた作品群であり、、また、映像作品に力を与える、ということをファンとして強く主張したい。

サントラデビュー、映画出演デビューとなった「戦場のメリークリスマス」。ラストシーン、画面いっぱいに笑みを讃えるビートたけしの表情がストップモーションになった瞬間響き渡るエキゾチックな「タララララン」という五つのサウンドに心揺さぶられるほどの衝撃を受け、すぐにサウンドトラックを買い求め、リビングにあった母親のターンテーブルに乗せ、映画を見ていない両親にとっては謎の音楽でしかない「タララララン」を連日かけ続けた。「影の獄にて」というローレンス・ヴァン・デル・ポストの原作も読み、大島渚の作品についても調べあげた。デビッド・ボウイのレッツ・ダンスにもハマり、プロデューサーであるナイル・ロジャースについても深堀りした。若い頃の情熱とシナプスの広がりが眩しい。

また、先に触れたシェルタリングスカイの前哨戦となるベルトリッチ監督との初仕事「ラスト・エンペラー」ではジョン・ローン演じる愛新覚羅溥儀が、かつての自分の城であった「紫禁城」に観光客として訪れ、子供のころ飼っていたコオロギと再会する悲しくもファンタジーなラストシーンに響く荘厳な音楽。オーケストラと二胡によって奏でられるエモーショナルなメロディは、日本人によって翻弄された満州国、溥儀への贖罪、そんな罪悪感を洗い流す免罪符のように私の五臓六腑に染み渡った。
と、全ての映画についてひとつひとつ語りたいところだが、いかんせん文字数には限りがありその願いは叶いそうにないので冒頭に登場した砂漠の映画「シェルタイング・スカイ」について触れて締めようと思います。
この映画は原作者であるポール・ボウルズがカメオ出演しており
「are you lost ?(道に迷ったのか?)」
と夫を亡くした主人公に語りかけるシーンで終わります。

ポール・ボウルズの小説はどれも「踏み込んではいけないところに足を踏み入れた人間が触れてしまう恐ろしい深淵」を感じさせるのですが、さてこの夫婦が見た深淵はいかに。
永遠の愛があると信じる人も、永遠の愛などない、と考える人も見たほうがいいです。おそらくどちらも裏切られるでしょう。

アー・ユー・ロスト?

アヤコフスキー@札幌。ディレクター・デザイナー。Salon de Ayakovskyやってます。クロエとモワレの下僕。なるようになる。リトルプレス「北海道と京都とその界隈」で連載中 http://switch-off-on.co.jp