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リベンジ ー未来を見据えてー

自分で納得できる、力を出し切れたと思う走りの方が圧倒的に少ないかもしれない。数々の山を越えて進むトレイルランニング、特にフルマラソン以上の距離を進むロングレースとなると、走力だけではない総合力が試されることになり、ゆえに 上手く走り切れない要因はさまざま。走り終わった直後は、わたしも”失敗”したなぁと一丁前にも思うこともあるが、でもよく考えてみたら いつも その日その時のわたしの精いっぱい、それはわたし自身の実力であり”失敗”ということではないのかもしれないと思うので、わたし自身”リベンジ”という言葉はあまりピンと来たことが無い。

でも今年、父が16kmのトレイルレースを走った後に言った「来年リベンジしたい」と言う言葉が、とんでもなくカッコよくて誇らしく感じ、そんな父について少し書いてみたいと思う。

父は癌だ。2023年で73歳になる父は、還暦を迎える少し前にステージ4の状態で癌が見つかり、それ以降一度も寛解することなく、ずっと癌と共に生きている。10年ほど前に2クールの抗がん剤投与を経験した父は、いち早く後期高齢者の仲間入りをしたかのように老けた。癌にヤラれるが先か、抗がん剤にヤラれるが先か、というような綱渡り状態な日々を 命からがら渡り切った父は、自分のエンディングに向けて身辺整理も始めていたようだった。自分の大事な大事なコレクションだったはずの、若い頃から少しずつ買い貯めてきた大量のレコードも、ある日実家に帰るとゴッソリ無くなっていた。あぁ、覚悟を決めたんだなと。

そんな父が、娘(わたし)の影響を受けて(たぶん)トレイルランデビューしたのは2022年のこと。おまけに、これまたわたしの影響を受けて(たぶん)クロスカントリースキーデビューもし、それなりの金額をかけて それなりに良い道具一式をゲットした。
「お金と筋肉。あった方が良いものは持ってて損は無いよ!」と日々連絡が来る娘(わたし)に半分監視されながら、日々のジョギングと筋トレを欠かしていない。(はず。)雪が積もる北海道、冬はジョギングはできないのでクロスカントリースキー。お弁当持参で。(らしい。)
そうやってコツコツと父なりに準備を積み重ね、2023年は6月にテイネ15km、9月にニセコ15km、ルスツ16km、そして11月には雪が散らつく極寒の白馬で15kmを走り切った。その中で9月のルスツは、フィニッシュの関門時刻に間に合わず 父の公式記録は残っていない。もともとコースが厳しめな上に、関門時間は4時間と これもまた厳しい。健康体のランナーにとってもなかなかの条件だが、癌の治療を経て血中酸素濃度が常に90%を切っている父にとっては、完走は難しいと思われるレースだった。が、娘が勝手にエントリーするという強行に出て、母に寄ると 父はその話を聞いた時に少し怒っていたようだが、「せっかく出るならゴールしたい」と、いつも以上に準備をがんばっていたそう。結果は4分11秒届かず。
出し切った父には余力は一切無く、80km部門を走っていたわたしのゴールには現れなかった。(いつもはゴールで出迎えてくれるが。)

テイネトレイルにて。3人とも完走!


ホテルに戻り、父に「素晴らしいタイムだよ!おめでとう!」と言うと、「来年リベンジしたい」と返ってきた。年々年老いていく父には、一年という重みが 40代のわたしの一年とは全く違っていて、正直なところ 来年はもう無理だと言って出ないだろうと思ってしまっていたのはわたし。しっかり未来を見ている父の強さに圧倒され、嬉しく誇らしく思った一日だった。

わたしは80kmの優勝賞品としてもらったルスツリゾートのペア宿泊券を父に贈る。「来年のリベンジの時に使わせていただくよ。絢子、おめでとう。」80kmに出走した女性がわたしひとりだったことはヒミツ🙈

11月、極寒の白馬でラストランナーとしてゴール。先にゴールしていた母と出迎えに。
この後から父は長期入院することに。でも、入院中もB1階から13階までの4往復を日課としているそう。たまに5往復。なんてゆーか、やりすぎ…!

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