扉の向こうにある気持ち
もう、全くかぼちゃ坊やは考えなしなんだから!
みんながみんな、ハロウィンウェルカムではないのよ。
もしも、眉を顰められても首を傾げてはダメだからね。
全くおばけちゃんは、いつだって気にしいだ。かぼちゃ坊やは頓着しません。
でも、かぼちゃ坊やの訪問が、例えば災いから守ることを目的としていても、ノックしたお家の方の魔除けのためだからという理由で受け入れてもらえるとは限らないかもしれないよ。
かぼちゃ坊や、そうなんだよ。
☆☆☆
初めてのお家に訪問する時には、いつも緊張します。ケアマネージャーという仕事をしています。
私の仕事は、申請ありきです。
困っています。と手を挙げた方の元に足を運びます。
とかく、人に迷惑をかけるのはよくないとされる日本で「困っています、助けてください」と手を挙げることは、何よりの勇気で素晴らしいことです。私は、それを迷惑とは考えていません。生きるために必要な判断だとそう称えるべきことと捉えています。
ピンポーン。はじめまして、おだんごと申します。とご挨拶したその瞬間に、あれ?と思うことがあります。
求められていないな。と感じる時です。
もちろん、みなさんそれぞれに支援者というもののイメージがあり、私がそこにそぐわなかったのかもしれません。
ケアマネガチャです。ハズレだと思われたかな。大丈夫、第一印象のハズレは実はアドバンテージです。後々転じて福となる場合もあり。
あれれ、これはもしかして、もっと手前の話かな。
挙げた手を下ろしたくなることありますよね。
周りが動き出したら、自分ごとなのに置いてけぼりになったような気がしますよね。
そうなのかな、違うかな。
はじめましては、そんな思ってもみなかったに包まれることも珍しくありません。
一人暮らしのまだ60代の男性の担当になりました。
脳血管性の認知症を発症してから、歩くことが難しくなり、ゆっくりゆっくり動きます。
言葉が出てくるのも時間を要します。
人付き合いは徐々になくなりました。
尋ねてくる人は、ピンポンを押しても誰もいないと言います。玄関まで5分かかります。鍵を開けた時には誰もいません。
電話に出るのも同じです。呼び出し音が15回でたどり着く。大抵の電話は切れてしまいます。
包丁を持つ手が震える。炊飯器の操作がわからないだけで、もうひとつ、炊飯器を買ってしまう。あれあれと、生活が綻び、包括支援センターの職員さんの説得で、介護保険が申請され、要介護認定を受けた方でした。
まだ、年寄りじゃないから行かない。
デイサービスのことですね。はい、行かないと。
人が来るのは嫌だ。
ホームヘルパーのことですね、はい、こちらもお断りか。
ベッドはこれでいい。
福祉用具も必要なしと。
何が心配ですか?
動けなくなって誰にも見つけてもらえないこと。
訪問看護さんに週1回、内服確認と体調観察に来てもらうことを、どうにか了承してもらいました。
配食弁当の手配や、受診の予約をして、冬場の除雪の支援を申請する。そんなあれこれを少しずつ少しずつ頼まれるようになりましたが、一つ注文を出されています。
ある時、どうしてもサービス調整ができず、内服や受診がきちんとできるか気がかりで、繰り返し電話をしても全くでないため、足を運びました。
チャイムを鳴らして5分後に現れたその人に
突然の訪問をわびて、私は言いました
「なんだか心配で」と。
するとその人は、
「心配はしないで」と言いました。
心配とは余計な贈り物でした。
私が出会う前もその人は自分の暮らしを守っていて、今だって例えば支援が入っていても暮らしの主導権はその人のものです。
私のものさしで、勝手に大丈夫か大丈夫じゃないか?足りているか不足か?と推しはかり判断しては、押し付けていたんだなと感じました。
先回りを気が利くと褒められて、認められてきた価値観は私のもので、その人からは疎ましいものだったのかもしれません。
「わかりました。そうか、心配は嫌なんですね。これからは心配はしませんね」と私が笑うとその人もニヤリとしました。
心配オア信頼。
私の心を配ること、配り切れているかということばかりに目が向いていました。私ができることに注視するのではなく、彼ができることを認めるべきであったのに。
彼を信じること、彼の生活力に頼ることを、私はすっかりおざなりにしていました。
私の仕事がいくら災いのリスクを減らし、良い方向に導くものであったとしても、それを押し付けるのはやはり間違いだと思っています。
かぼちゃ坊や、ほらほら深呼吸。
扉の向こうの人の気持ちを大事にしなくちゃね。
トリックオアトリート!も巡り巡ると、ドアの向こうの方の幸せを願うおまじない。
それは、私のピンポンにも似たようなことを感じています。
☆☆☆
今月の大喜利往復noteは、中川さんのイラストが先行でした。
10月にふさわしいハロウィンを想起させるかぼちゃ坊やとおばけちゃんから、私の仕事の話を書きました。
イラストから生まれた文章をお楽しみ頂ければ幸いです。
中川さーん!今月もありがとうございました。
さあ、来月は何を書こうかなあ!