先生、私を卒業させます(創作)3話
3話 望月、ここは絶対譲れません。
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私、青柳 陶子。15歳の中学3年生。
今、土曜日の13時を回ったところ。
歯に青のりがついているよ。とあろうことか私を
好きだと告白してくる非常識な28歳の理科教師に
指摘され、廊下の水飲み場で絶賛歯磨き中。
私が口を濯ぐためにプラのカップを口元によせるまさにその時、
生徒会室から舞子が走ってきた。
口を真一文字に閉じている。
私のそばにきた舞子は、腹話術で言った。
ハニパセリツイテルゾ、キサラ。トイワレタ。
私は、ニヤリと笑う舞子の白い歯にパセリを
見つけ、うがいの水を噴き出した。
青のりが歯についている女性にスマートに対処
する方法を近田に弁じている途中、まじまじと
舞子を見つめた近田が教えてくれたそうだ。
高速ブラッシングをしながら、ちょいちょい
説明するため、歯磨きも情景描写も中途半端だ。
舞子は口を濯ぎ、鏡ににーっとして歯を確認すると
あいつ、話きいてないな。あんなまっすぐ見つめて、くすりともしないで、パセリついてるぞ。とか言ってきたよ。本当、どうかしてる。
舞子はいつもより早口だった。
恥ずかしかったんだね、舞子。
私が言うと、なかまなかま!と肩を組んできた。
おしゃれパセリも庶民の青のりも歯につけば同じ。
友よ友よ。と私も肩を組み換えした。
青柳、木更。私達の背中に投げかけられた声は。
振り返ると、望月がいた。
歯磨き終わっててよかった!今だけは近田に感謝を捧げる。
あのさ、俺、本当にいなくてもいい?
望月は、野球部の練習用のユニフォームを着ていた。
いいよ!大丈夫!うまくやっておくから、任せて!
舞子は胸を張って笑顔で答えた。
私も力強く頷く。舞子みたいにうまく話せない。
悪いなあ。あれ、多分なかなかイエスがもらい辛いと思うんだよ。
望月は、少し不安げだ。
望月 創 《もちづき つくる》
椿山中学校の生徒会長で野球部のキャプテン。
ただひたすらに人が良い顔をしている。身長はぐんぐん伸びていて、どんどん視線が遠くなる。
思春期の葛藤の看板を早々に降ろし、凪のような佇まいを携えていた。その抜群の安定感が皆を安心させ、柔らかなリーダーシップを発揮していた。
これから生徒会では、運動会の生徒会企画を校長先生にプレゼンに行く。
すでに企画書は完成していた。あとは、プレゼン前の打ち合わせで、プレゼンは私たち2人と
もう1人、男子の副会長が担当することにしていた。
望月は、明日大事な練習試合がある。
最後の大会も近い。望月がいなくても大丈夫。
俺たちなかなか有能だぞ。
そう言って一昨日の企画会議の終わりに
望月の背中を押したのは
公 敬 《おおやけ たかし》だった。
冷静沈着、成績優秀、ツンデレ最高の四字熟語の
似合う副会長だ。
私達だけでは、多分突破できない壁をハムがさ、
後方支援してくれるよ!
舞子は勢いよく言って景気をあげる。
おおやけのあだ名はハムだった。
私も頷き
望月は、野球に集中しなよ。とやっとの思いで
そう絞り出した。
望月は、私達を交互に見て言った。
でもさ、本当に水着はさ、厳しくないか?
あの件がなければな、こんな悩まなくてよかったのに…。
望月。
私は言った。これは水泳部の私が言わなければならない。
部活動対抗リレーは椿山中の伝統だからさ。
望月、これは譲れないよ。どんな手を使っても
私は水着で走る。
陶子、その熱意は校長室で出しなよ。
好きな男子に、水着で走ると謎の宣言をする私を
舞子が制した。
青柳。すまない。そうだよな。すぐひよってごめん。すぐ丸く収めようとする悪い癖がでた。
木更、青柳、任せた!あと、ハムにもよろしく。
みんなに協力してもらったから、俺も頑張る。
うん、それじゃ。
望月は、背中を見せてグラウンドに小走りで向かう。
よし。決戦じゃ。
舞子は言った。
生徒会室に戻ると、近田とハムは将棋をしていた。
ハムが完勝するのに時間はかからない。
その勝負がついたら、私達の勝負だ。
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