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そうはならないから
今日はちょっといつもと雰囲気を変えていきます。
投げる前に変化球ですと申告する、礼儀正しい
ピッチャーです。
それでも、あなたの懐にストライク。
割と強欲です。おだんごです。
若い時の話をします。
専門学校に通っていた頃のお話です。
私は学校のすぐそばの和菓子と巻き寿司やおこわなどを売るお店でバイトをしていました。
いろいろ扱っていましたが、総称はだんごやと
呼ばれていました。店名は別にありますが。
おだんごを売っていた頃に、今の私の基礎固めをしたので、おだんごと名乗っています。
白い三角巾をして、橙色のエプロンをして、なが靴をはいて
売り子をしたり、店の中の仕事もしていました。
クラスメイトで誰が見てもかっこいいねといわれる金髪男子がいました。
顔の造形が整い、着ているもののセンスがよく
立居振る舞いがイケメンとして生きてきた10数年を感じさせる人でした。
だいたい福祉の専門学校ではかなり浮いていました。実習では誤解されやすい風情でした。
私はそれまでそうしたタイプには見向きもされず、相手にされたところで、緊張してしどろもどろになることが常でした。
しかし、その彼はなぜか私に話しかけてきました。
1番のきっかけはバイトでした。私達は、同じように学校の近くで、何やらがむしゃらにバイトをしていました。
自分の仕事や、職場の人を大切に思い、なるべく役に立ちたい。彼と私はそこが共通項でした。
そして、福祉福祉した人が苦手でした。なんというか、一途なボランティア精神が私達には
欠如していて、そこも共鳴していました。
このnoteでは、きつねと呼びます。
私は苗字を呼び捨てで呼んでいました。
私がなんと呼ばれていたか忘れましたが、
おい、とか、おまえさ、とかだった気がします。
きつねはマイナーコンビニ、私はだんごや、やたらに働くため、みんなと飲みに行くことや遊びに行くことを断ることもありました。
すると、店が終わる頃、きつねが店にやってきます。
「いいとこ連れて行こうか?」ということも
「どうせ、腹へってるだろう」もありました。
いいとこも気になるし、大抵腹ペコで、
私はうんうんとしっぽを振ってついていきました。
大抵、コンビニで一緒に働いていた大学生のセレブが車を運転して迎えに来ました。
セレブは大学生にも関わらず、外車に乗っていました。
最初に見た時、ひょえーと思いました。
セレブは親が金持ちだから仕方ないと話していました。
俺は社会勉強でバイトしてんの。と言っていました。金も無いしと。
親のお金の車は乗るけど、生活費は自分でまかなっていたのか、金のあるなしの線引きが微妙なセレブ。なんというか、あまり気をつかわずとも良いタイプでした。みんなが名前を知る大学に通っていました。
セレブは、親の金があることが何かと邪魔だと言っていました。イメージが悪いと言います。
顔が良いのも何かと邪魔だときつねは言っていました。勝手に判断されると言います。
金もなくて、顔もありゃま。な私がなんなら羨ましいみたいに扱うので、へーと思いながら車の後ろで流れる夜景を見ていました。
当時、木村拓哉さんと山口智子さんが共演したドラマでロケに使われたレストランに連れて行ってくれたことがありました。
おしゃれが鋭角で切り込んでくるような、
私には場違い極まりないそのお店で、おいしいを感じるよりセンスで息が詰まりそうになりながら食事を終えて、席から立ち上がったときに
頭をライトにぶつけました。
繊細なデザインのライトは大げさに揺れました。
おまえね、そういうとこが、男できないんだよ。
きつねが嘆き、セレブが頷く。
なぜ、この雰囲気でそのようなドジを重ねるのか?
ダメ出しが続きます。
その前にもきょろきょろしてつまづいたり、
なんだか音を立てたりしていました。
だな。と反省して、ごめんごめんとおちゃらけながら、やはりわたしにはお付き合いの道は険しいなと思っていました。
笹塚ボウルでのボーリング。
夜の高速道路。
千葉の海で花火。
朝の松屋で並んで食べた定食。
きつねの彼女のおうちにお泊まりもしました。
彼女のりゅうちゃんが、朝
お汁のみな、おだんごちゃん。と
お味噌汁をよそってくれたこともありました。
お味噌汁をお汁と呼ぶりゅうちゃんは、優しく気が利く美人でした。
きつねとりゅうちゃんは、中学生から付き合っていました。
りゅうちゃんはすでに特養で働く社会人でしたが、私達が夜遊んで帰れなくなると、おいでーと言って泊めてくれました。
朝のお汁とおにぎりをつくってくれて、
仕事に出て行くりゅうちゃん。
その背中にいってらっしゃいを言いながら
やっぱりお付き合いするような女子のスペックが自分には足りないと感じていました。
その後、私にも心がぽかぽかするような出会いがあり、きつねたちと遊ぶ回数は減りました。
私が彼氏ができたぞと報告すると、
まじかよ。つまんねえな。ときつねがいいました。
久しぶりにきつね達と遊んだ帰り道、きつねと
セレブと電車に乗っていました。
電車が揺れて、私がバランスを崩した時に
私の肘をきつねがぎゅっと引いてくれて、
私は体勢を直しました。
あー。ときつねがおこりました。
ちゃんとしてろよ。電車ん中で注意が足りないんだよ。棒とか捕まれ。
おまえとはそうはならないんだから。
助けさせんなよ。
セレブは両手で吊革につかまっていました。
あっ、はい。ごめん。と言いました。
酔ってんだな、私も、きつねも。
そうはならないんだからと心で繰り返しました。
きつねは、私の洋服を少し握っていました。
小さい子を見守るお父さんのようでした。
電車を先に降りる私に、
酔ってんだから、座って帰れ。と乗り継ぐ電車の車内まで心配していました。
卒業式。私はすでに結婚が決まっていましたが
きつねにそのことはいいませんでした。
もう二度と会わないだろうと思いました。それに伴う寂しさや喪失には
背中を向けておこうと思いました。
きつねは少し前にりゅうちゃんとお別れしていました。
あんなにお似合いの2人が、私にはさっぱりわけがわかりませんでしたが、りゅうちゃんが別れようといい、振られたと言っていました。
かなり荒れて消耗していたきつねに優しい言葉は一切かけませんでした。
不意に2人になった時、きつねが別のクラスの女の子の名前をいい、あの子と付き合うことにしたわと言いました。
あんまり、私のタイプではありませんでした。
まじかよ、つまんねえな。本意気のつまらないを込めて言いました。
おたがいさまだろ。きつねが笑いました。
その通りです。
じゃあな。元気でな。
うん、元気でね。
あの日、原宿の空は晴れていました。
さよならは、しみったれていなくてあっというまに、空の青さに溶けていきました。
これは、たぬきの親子さんの企画に、私の大好きなnoterさんがじゃんじゃん傑作を書いているのをみて、私も一つ書かせていただいたものです。
あの頃の自分を少し切り取れたらいいなとそんな自分のためのnoteです。
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