5歳の息子が、「僕は宇宙から来たんだよ」と言った日
3番目の息子が、5歳の頃の話です。
不安定な少しどんよりとした雲の合間から
光の梯子が降りている空模様をみて、
一緒に車に乗っていた息子に
「お空と繋がって神様が降りてきそうだね」
と声をかけると、息子は小さな声で
「ママ、僕ね、本当は宇宙から来たんだよ」
といいました。
唐突に衝撃的なカミングアウトに、私が
「そうなの?本当に?」と聞き返すと
「うん、内緒だけどね。」と静かにいいました。
それ以上、その話は深掘りせずに終えました。
私はそれ以来、息子はもしかしたら宇宙からの預かりものかもしれないと、心の片隅において子育てしていました。馬鹿馬鹿しいと思われるかも知れませんが、割と本気で、もしかしてと思っていました。
息子が中学生の時、あの日と同じような空に出会いました。一緒に車に乗っていた息子に、
「昔さ、こういう空の日に、お母さんに僕は宇宙から来たんだよと話したこと覚えてる?」
と尋ねると
「ああ、覚えてるよ。」と即答しました。
やっぱり、本当に宇宙人なのか。あの陣痛や出産は幻か?とぼんやり考えていると、
「あの頃、俺、みんなと同じこと何も出来なかったでしょ。お母さんが少しでも安心するかと思ってさ。」
と言いました。
5歳の息子は、保育園で友達が1人もいませんでした。
運動会のスタートの発砲や、避難訓練のベルに極度に怯えて泣いてしまい、行動できなくなりました。
5歳児検診で要検査と言われ、臨床心理士の方と面談し、積み木やミニカーを使った検査や、何か書いたり質問されたような気もしますが、はっきり覚えていません。
その後、更に詳しく検査をしますか?と聞かれました。した方がよいかもしれませんねと言われました。
息子の状況に何か名前が必要で、専門的な支援が必要なのか、私にはわかりませんでした。
知りたくない気持ちを、親として向き合う気持ちが足りないと判断されるのだろうなと思いました。私達夫婦は、どうすべきか悩んでいました。
検査の後、息子はごはんを飲み込めなくなりました。ごはんを食べる時に、喉に詰まる感じがして飲めないというのです。
検査はしないと決めました。私達からみて息子は引っ込み思案で心配性ではありましたが、上の2人と比べて特に気がかりではなかったからです。
ごはんが食べられなくなるほどのストレスを与える方が、親として良くないことに思えました。
息子が宇宙から来たんだよと言ったのは、その頃でした。
宇宙からきたのかと思えば、いろんなことが難なく思えました。たいしたことないと考えはじめたら、大抵のことは受け流し、愉快に感じました。
保育園の世界のルールになかなか馴染めず、自分の世界に閉じこもっていた息子は、ほどなくしてはじめての友達ができました。
そこからは、転がるように変わっていきました。自分の力だけで、自分の殻を破り、自分で戦い強くなっていきました。
私が心配していることが、息子を窮屈にしていました。本当の本当には息子の力を信じられず、人と違うこと、同じようにできないことに腹を立てたり、私のせいだと自分を責める母親が、きっと蓋になっていたのでしょう。
私が安心することが、息子を自由にすることだったのかもしれません。
5歳の息子は、私を救い、自分自身も救いました。
あんな機転が効くということは、やっぱり宇宙から来たかもなと、今でも時々訝しく思いながら、高校生の息子を見つめています。