豚汁といえば三日目なのである。
一日目の豚汁はまだ愛想が足りない。初対面だからと、なんだかやけにすましている。ただ、それも考えてもみれば仕方のないことで、ぐつぐつぐつぐつ長いこと煮込まれていたかと思えば、いきなりフタを開けられて、見知らぬお父さんお母さん娘息子が覗き込んでいるのである。誰だって緊張する。
それが二日目になると、とたんに顔を綻ばせる。チョロい。玉ねぎと人参と里芋の、甘い香りがする。脂ぎっていた表面がちょっとだけぐずついて、とろんとした顔つきになる。「好きなだけよそっていいよ」と言ってくれている気がする。
そして三日目には、もう、鍋の底が見えてしまう。さみしい。けれど、その日の豚汁はいちばん柔らかな顔をしている。玉ねぎと人参と里芋がとろけて混ざり合って、ときどき噛みしめる豚肉の切れ端がたまらなく美味しい。飲み干したお椀の底に残る、かすかな具の残りが愛おしい。
果報は寝て待て、石の上に三年、猫に小判と豚に真珠。
豚汁は三日目なのである。
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