南信州の冬

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夏山もさることながら、雪をまとった冬のアルプスはこの上なく美しい。
神々しい雪山を拝む機会は、以前はせいぜいスキーのついでに、年に一度くらいのものだった。それが今では、ちょっとその辺を散歩するだけで、朝も昼も夕方も、この素晴らしい景色がいつでも目の前に広がっている。

越してきて間もなく「凍みに気をつけて」とよく言われた。
南信州では雪はほとんど降らないが、特に朝晩の冷え込みが厳しく、凍るような寒さということらしい。
最初の冬となる一昨年に、その言葉の意味を実感した。
当時寝起きしていた古民家は、和室をふすまと障子で仕切り、居間と寝室、物置として使っていた。
就寝時にはありったけの布団を掛けるのだが、布団から出ている顔は冷たく、吐く息は白く、なかなか寝付けなかった。
朝起きると、いの一番に居間の石油ストーブをつける。それでもすきま風の入る部屋はなかなか暖まらず、いつも次男とストーブの前の取り合いをしていた。
ストーブに近づきすぎて、服を焦がしたこともしばしばだ。
排水管が凍るので、洗濯機は途中で止まってしまう。
風呂から上がり、パジャマを着る時の寒かったこと。土間を通って居間にたどり着くまでの間、寒すぎて、次男はいつも奇声をあげていたっけ。

あまりの寒さに耐えかねて、古民家の脇に小さな家を建てた。
高気密高断熱で、さらに居間には床暖を入れたので、二度目の冬は快適に暮らすことができた。

古民家の以前の持ち主が画家さんだったので、以前アトリエだった部屋を今ではカフェスペースとして使っている。
一年間暮らした和室の方は、ゆくゆくリフォームしてゲストハウスにするつもりだ。
季節が良い時期だけと思っていたら、ある知人が「極寒民宿も面白いんじゃない?」と。
世の中変わった趣味を持つ人もいるのだから、寒さ体験に萌える(?)人もいるのかもしれない。

今年はかなりの暖冬で、例年2.3回は積もるほど降る雪も、この冬はヒラヒラと舞う程度だったし、車のフロントガラスが凍って大騒ぎすることもなかった。
過ごしやすいに越したことはないが、地球温暖化の影響と思うと、残念な気持ちになる。

先日、庭先で蕗の薹が顔を出しているのを見かけた。
本格的な寒さがついに来ないまま、季節は春に移ろおうとしている。
(2020.3.31)

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