田舎暮らしは忙しい
春の使者であるフキノトウを見つけてからは、つくし、よもぎ、フキ、タラの芽、のびる、おこぎ、筍と一気に山菜や野草が芽吹いてくる。
敷地の竹林から筍が採れるのだが、移住した年にはもう見るのも嫌なくらい次々と生えてきたので、水煮にして食べきれない分は、瓶詰にして翌年まで筍料理を楽しんだ。
保存食づくりというものは、大抵手間がかかるものだ。
堀りたての筍は、米ぬかと唐辛子で竹串がすっと通るまで茹でてから、鍋ごと冷ます。
その後水にさらして、殺菌ために酢水で10分煮てから、煮沸消毒したビンに酢水ごと入れ、そのビンをさらに湯を張った鍋で15分煮立たせる。
移住した翌年はカフェの開業と時期が重なったので、フキノトウもタラの芽もとうとう取らずじまいで、筍は端折ってビン詰めにしたら、水が濁って全部腐らせてしまった。
そう、自然は待ってはくれないのだ。庭では他に栗や柿やざくろやかりんイチジクなどが採れるが、特に栗の渋皮煮と干し柿作りの時期が到来すると、睡眠を削っても間に合わないくらいだ。
5月中旬には田植えが、7月にはスペルト小麦の刈り取りと脱穀、乾燥、製粉作業が、そして夏には畑に朝晩二回の水やりとそして雑草との戦いが待っている。
9月には稲刈りとはざ掛け、脱穀、10月末にはスペルト小麦の種まき作業がある。
農作業のない冬には、片付けなどの雑用をやろうと思うのだが、寒さに負けて意外と思うようにいかない。
今年はコロナ禍で店は開店休業状態なので、幸か不幸か作業に専念する時間がある。
それでも一日はあっという間で、やりたいことが半分も終わらないうちに夜になり、そして眠気に負けてしまう。
「田舎暮らしは忙しい」というのが、こちらに移住してからの口癖になった。
それでも生命力にあふれたものを口にできるのはなによりの喜びであり、大自然の中で思い切り身体を動かしているせいか、夜もぐっすり眠れるようになった。
東京にいたころは睡眠の質が悪く、ずいぶん悩まされていたものだ。
私はこの歳になり、健康であることの素晴らしさをかみしめている。
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