冒険に行くつもりで働く
同僚が職場を去った。別れの挨拶もなく。
すごくきれいな人だった。あまり話したことはなかったけれど、この職場にいるタイプの人ではないと思っていた。どこかふわっとしていて、つかみどころがない。意見を求められても、ほほえみを浮かべていた。
お休みが続き、「ああ、もう無理だろうな」と思っていたところだった。何があったわけでもない。チームの人も仕事熱心な人ばかりだ。
上司もいい。制度改革は、部下のため、ひいてはよりよい職場を作るために奮闘している。それでも、心が病んでいってしまった。
大学を卒業して4年、仕事を1年ごとに変えていたという話も聞いていた。彼女自身の中に、心の病にならざるを得ない何かがあるのだと思う。
こういうことは、よくあることなのだろう。私が勤める職場だけでなく、世の中の色々な職場で。
そう思うと、社会に出るのが怖い。
世間や社会の怖さ、乱暴さ、制度疲労。昨日までテレビにたくさん出ていた人が、突然消える。昨日まであったお店の名前が、急に変わる。私の領域にずけずけと入ってくる、仲よくもない人。
世界は乱暴だ。
そんなジャングルのような、何が起こるかわからない世界にある、小さな宝石のような光るものを探している。
近所のケーキ屋のアップルタルト。技を極めた職人さんの話。子どもたちの小さな親切。初めて聴いた、雑誌に掲載されている音楽。変わる季節を感じさせる風の音。我が子の温かさ。そして、私の中に湧き出る言葉たち。
冒険に行くつもりで、私は今日も家を出る。働く。
今日はどんな宝物を見つけることができるのだろう。