【あべ本#19】佐高信・編著『安倍「壊憲」政権に異議あり』
出オチ感満載の表紙
表紙をご覧いただければわかる通り、こちらの本は佐高信さんの編著で、〈保守からの発言〉として錚々たる面々が登場します。名前の挙がっている上の段の方々はともかく、元朝日新聞記者の早野透氏や辻元清美氏など、「……ほ、保守?」と言いたくなるようなお名前が挙がっており、出オチ感満載と言っていいのではないでしょうか。
もちろん、保守とは何か、革新とは何かということは揺らいでおり、早野氏や辻元氏はお友達の間では保守寄りとされてきたのかもしれません。また「憲法守れ、改革要らない」という「ここから一歩も動きません」的な思想は語義的にも革新よりは保守なのでしょうが、「保守反動」などと言われた時代は「革新でござい、進歩派でござい」とし、都合のいい時だけ身を翻して「保守だからこそ」などと言わないでもらいたいものです。
〈真正保守と佐高信の共闘!〉と言われても
率直に言って、この本のつくりは「ぬるい」。イベントや雑誌での対談を再録し、間に佐高氏や早野氏が対談相手について小文を寄せるという構成ですが、今まさに読んだ対談の内容を次の節の小文で「亀井はこう言っている…」などとして引用されても、「いやいや、今読みましたがな!」という気分に。これで1500円はちょっと……。
また、帯では〈暴走する安倍政権に、保守政治家と保守論客が存在を賭けたNOを突きつける〉とあるものの、このメンツが安倍政権にNOを突きつけたところで、一体全体どこでの存在を「賭けて」いるのかさっぱり分かりません。上の段の方々も、下の段の方々も、安倍政権を批判したところで存在が揺らぐようなことはないでしょう。鈴木宗男さんは娘さんが自民党議員だから影響はあるかもしれませんが。
2015年刊行の本なので、上段の面々が安倍批判をするのも珍しくなくなった今とは、当時のインパクトは違ったのかもしれません。しかし、「自民党(や保守?)の重鎮も安倍晋三には怒ってますゾ!」というのが政権や世論に「効く」かと言えば疑問。いや、効くかどうかにかかわらず、批評すべきだとは思うのですが、〈真正保守と佐高信の共闘!〉と銘打ったところで、これに「おお、安倍とはここまでアカンのか」と思う人は限られているのでは。
なんでも「戦前回帰」の思考停止
とまあ企画そのものの話はこれでやめるとして、肝心な中身の問題ですが。
相変わらずの「岸を引き合いに出す」安倍批判が行われており、安保法制が話題になっていた時期なので「戦前に戻るつもりか」というこれまた相変わらずの批判は飛んでいます。
しかし、仮に自衛隊が集団的自衛権を行使して海外での何らかの戦闘行為や戦争に参加するとしても、それは「戦前とは全く違う姿」であることは間違いないはず。海外の権益を失いたくない/資源が欲しい/日米戦争は宿命/対ソを見込んで…/などなどの戦前の戦争へ至る道筋と全く違う状況が出現するわけで、ともすればそれは戦前よりも難しい状況になるかもしれない。しかも、戦前敵だったアメリカと足並みをそろえた形で。
そうした「新しい状況の、新しい脅威」をどう考えるかという話がすっ飛ばされて「戦前回帰」それだけを懸念するというのはもはや思考停止でしょう。
一体誰の「ミステイク」なのか
それつながりで、本書で最も印象深かったのは、山崎拓氏と早野氏の対談で、山拓氏が小泉政権時代に自民党幹事長として、アメリカのイラク戦争開戦に直面する場面。パウエル国務長官から「ブッシュが小泉に電話するから、『アメリカを支持する』と言わせてくれと頼まれた」という。そして、先方からは「(開戦の理由は)大量破壊兵器があるからだ」と言われた。
小泉総理から「拓さんに任せる」と言われていた山拓先生はそれを聞いて、アメリカに賛成するよう小泉総理に伝え、実際に日本は開戦を支持したわけです。支持したのは日本だけではありませんが、それが後押しとなって、アメリカはイラク戦争に突っ込んでいった。
その後の二人のやり取りはこのようになっています。
山拓 ……後でパウエルさんは「あれ(大量破壊兵器)は間違いだった。騙された」と後日談として回顧録を書いています。自分の人生で最大のミステイクだったといっている。
早野 拓さんの今日のお話を伺うと、そうした様々な経験と失敗を積み重ねたうえで、平和国家日本がいかに大事か、もっと覚悟をもって進んでいかなくてならないという考えに至ったということだと拝察します。
いやいや、エーッという感じ。この話、本書でさんざん否定している集団的自衛権行使容認の話とつながってませんかね???
山拓先生も、このテキストだけ見るとずいぶん他人ごとな感じでしゃべってますが……。パウエルさんにはもちろんだけれど、日本にとってもかなりのミステイクなのでは。
なにか、安倍政権を叩くことにとらわれて、より大事な部分を見逃しているのではと思わざるを得ない展開でした。
佐高先生のコラムについては特に感想はありません。
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