【あべ本#13】佐高信『安倍政権10の大罪』
看板に偽りあり!?
佐高信氏の著作を読むのは初めてかもしれません。以前連載されていた『週刊金曜日』の記事や対談はどこかで読んだことはあっても、丸ごと1冊は初。
しかも《この国を破滅に追い込む》「10の大罪」を《糾弾》(《》内は帯裏文より)というのだから、嫌が応にも期待は高まります。
《1.アベノミクスというニセ札の発行》……うむうむ。
《2.消費税増税、法人税減税のアベコベ》……なるほどね。
《3.”安倍の秘密を守る法”の強行採決》……「アベ本」らしい、いいテンションですね! それにしてもずいぶんペースが速いですね。ここまででまだ7ページしか進んでいません。
これはもしかして、先に大枠を示しておいて、それぞれの問題についてさらに詳しく後述するスタイルなのかな、なんて考えていました。
……が、読んでみてびっくり。なんと「10の大罪」について《糾弾》しているのは冒頭の26ページ分の第1章だけ!!!
あとは『週刊金曜日』他で佐高氏が書いた連載をまとめた1冊であり、安倍政権についての話ではないどころか、書評日記まで再録されているというシリーズ物でした。
確かめなかった私も悪いのですが、末尾の出典を見るに第1章のみが書き下ろし。定期的に出している「各誌の連載まとめ本」をこのタイトルで出すために第1章を書き下ろしたというわけです。
一応、「10の大罪」を示す章はあるので「看板に偽りあり」とまでは言い切れないかもしれませんが、ちょっとがっかりしたことは申し添えておきたいと思います。
アジ風味も含めて文章がうまい
とはいえ、このタイトルでなければ佐高氏の著作との接点もなかったわけで。読んでみたらなんというか、意見は合わないところが多いものの、アジテーション的リズムがあって「読んでしまう」のです。これは発見でした。
《安倍晋三は北朝鮮を非難しているけれど、自分はまさに日本を北朝鮮のようにしようとしているアベジョンウンであるということ》
《タカ派ではなくバカ派》
《かつて「社会党のプリンス」などと言われたあなたに、いつも私が感じていたのは言語矛盾ながら”萎びる造花”の印象でした。あなたは造花なのに萎びたのです(拝啓 横路孝弘殿)》
……これだけでは伝わらないかもしれませんが、意見には同感でなくとも、「こんな風に批判するのか(笑)」とその身も蓋もない表現に思わず笑ってしまうようなところもあり、「タイトルには若干騙されたけど結構面白いじゃないか」と上から目線にも思ってしまったのでした。
過去に人が言ったり書いたりしたことをよく引用していて、ということはつまりよく読んで覚えているわけで、「前はこう言っていたのに今は…」式の矛盾を突く部分も多い。「こういう人が有識者のネット上の言説まで逐一チェックしていたら恐ろしいだろうな」と思わずにいられません。
池上彰批判に大きく頷く
第2、3章では多くの文化人やタレントなどを実名で批判しており、しかも右でも左でも関係なく対象にしているのも発見ではありました。
竹中平蔵や猪瀬直樹、麻生太郎などは「まあ斬られるだろうな」という感じですが、孫崎享、姜尚中、池上彰なども槍玉に挙げられている。
特に池上彰に対するこの一言には頷かざるを得ませんでした。
《池上の「わかりやすさ」が「粗雑さ」と裏腹であることを物語る》
全くその通り!! なお、この池上批判文で密かにdisられているのが内田樹氏で、「以前西部邁氏とやっていた番組で、内田樹の『街場のメディア論』が無内容な最低の本という評価で一致していたが、下には下がいた。池上の『伝える力』の中身のなさに呆れた」と嘆いています。
誰が読んでいるのか?
ちょっと「あべ本」の中でも番外編的になってしまいましたが、結果的に「そこそこ面白い」という感想を持ちました。これからも進んで買って読むかといわれると「……」ですが……。
ただ、同じ時期に、同じ話題について別の雑誌で書いた連載をまとめているので仕方ないのかもしれませんが、同じフレーズや同じエピソードが繰り返し出てくるのは気になりました。
例えば「イスラムには利子をとる習慣がないのでアメリカはこれが気に入らず、ことさら敵視している」というフレーズも2回は登場。これが本当なのかどうか私は確かめていませんが……。
それにしても、改めて見てみると連載も多く、書籍も多作も多作、多作ということはそれなりに売れもするのでしょう。特定の年代の、特定の層をガッチリ読者としてつかんでいるために本を出し続けられるのかもしれません。
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