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右派の私が「リベラル派による韓国分析本」を読んでみた③

読ませる工夫あり!

ラストとなる3冊目は新藤道彦・浅羽祐樹・金香男・春木育美『知りたくなる韓国』(有斐閣)。

筆者の皆さんは学者や研究員で、それゆえに「実直」な印象のある読み口でした。ともすれば平坦になりそうな中に「韻を踏んだシャレ?」みたいなものが紛れ込んでいたり、読ませる工夫もあり。4刷まで行っているらしく、「韓国について知りたいけど嫌韓本的じゃないものを」と探している方に、手に取られているのではないでしょうか。

「日韓断交」すれば、そりゃ楽だけど

昨今の日韓関係の悪化を念頭にこの本を手に取るならば、最も注目は第5章の「韓国外交における日韓関係」でしょう。「どうしてこんなことになっちまったんだ」という疑問を解きほぐすための歴史的経緯が丁寧に書かれています。

日韓の、お互いの「何が」ズレているのか、だけではなく、「昔は『ズレはズレとしてお互いに認識だけしておこう』と脇においておけたものが、そうできなくなってきた」こともわかる。二国だけではなく、国際関係や価値観そのものが変化してくる中で、これまでと同じような扱いをしていてはうまくいかなくなってきた面がある。

こういう点を読んでいくと、いわゆる右派論調的に「断交だ!」「韓国はもう終わりだ! ハイさよなら」と言えればそりゃ楽ですが、それでは済まない根深さ・難しさ・いずれかの結論に落着するまでの時間(長くかかりそう)を感じさせ、決して重い文章ではないにもかかわらず、読むのがしんどくなってきます。

その中でここでことさら紹介したいのが「コラム⑥―国家間関係の最後の砦」にある一言です。

防衛当局同士の関係(mil-to-mil relations)は本来、国家間の信頼において最後の砦であるはずです。

レーダー照射事件、海軍旗(旭日旗)の問題、GSOMIA破棄問題を抱えた今見ると、「最後の砦、壊れてもうてるやん」という気持ちにもなります。

「嫌韓本」との決定的な違い

さて、これが学者の力か! と思うのですが、対象(=韓国)に対する距離の取り方や、客観性というものは何かを教えられます。私はいわゆる「嫌韓本」と言われてしまいそうな本や記事も、それなりに読んできたのですが(書いても来た)、その手の本との違いは何かというと、この「客観性と距離の取り方」なのではないかと。

もちろん、そもそも「その本が何を伝えようとしているか」が違うわけですが、客観的に事実だけを書くのか、何か余計な価値判断を付け加えるのか。日本との比較をする点では一緒でも、どうしてもマウンティング的な記述になってしまうとか。

言い方は悪いですが、この本を底本として、韓国にとってよろしくないマイナスの材料だけを集め、余計な価値判断とマウンティングを付け加えたら、「嫌韓本」を作れてしまうかもしれない。でも決定的に違うわけです。

もちろん、「事実だけなら(嫌韓ではあっても)ヘイトではない」とは言えるし実際そうなのですが、「仮に事実であってもダメなところだけをことさらに集めたらどうなんだ」という問いかけはできそうです。

「ヘル朝鮮」と自嘲する気持ちはよくわかる

韓国社会は本当に厳しく、学歴も、稼ぎもそうなら、「老後の親の面倒を見ない子供が親から訴えられる『親不孝訴訟』」なんてものがあったり、美容整形も《容姿が人生を左右するとあおる社会の中で、変化のリスクを恐れていては、美醜による序列や疎外感から逃れることも、抑圧から自由になることもできません》とあるほどで(「美醜による序列」というパワーワード……)、ヘイト的な意味ではなく「この社会に生まれてたら大変だったな」とは思ってしまいました。

客観的に書かれたこの本なので、妙な哀れみなどはかけていないし、もちろんディスったりもしていないわけですが、だからこそ強烈に届くものもある。歴史から紐解かれていることもあり、「韓国って大変だな……そのうえお隣はあの金正恩で、中国はにらんでるし、かつてはロシアも狙ってたし……」と、その苦難は素直に受け取れる。もちろん日本も手を出したわけですが、この「苛烈さ」はかなりしみますね。だからと言って、「その不満のはけ口として日本を使っている面」を「我慢せよ」と言われてもそれは道理が違うだろう、と思うのは②で書いた通りなのですが、雑誌や本が売れるからと言ってディスりまくったりするのも違うよね、という気持ちにはなります。

それは上から目線の哀れみではなく、(特に私は、ですが)就職氷河期という「時代の流れによって、個人の努力だけではどうにもならない状況」を経た日本人としての、「同じ目線」での共感というべきかもしれません。

「金正恩も韓国国民」!

最後に、トリビア的な情報も。まず驚いたのは「金正恩も大韓民国の国民である」という事実! 韓国の憲法では朝鮮半島全域が領土であるから、というわけですが、これは知りませんでした。韓国軍は米軍から「金正恩斬首作戦やります」って言われたら、自国民の殺害を許可するんでしょうかね。

もう一つは、「東京タワーの3分の1は、朝鮮戦争中に米軍が実戦配備した戦車をスクラップにしたもの」。あの東京の、いや日本のランドマークタワーが一部とはいえ米軍戦車でできていたとは! 

丁寧に読んでいくと、こうした面白情報(?)も摂取できます。


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梶井彩子
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