見出し画像

【あべ本#3】『橋下・慰安婦・侵略・安倍―誰が日本の評価を下げているのか』

直視できないほどひどい表紙デザイン

これは数ある「あべ本」の中でもワースト1の表紙デザインではないだろうか。安倍・橋下が嫌いなのはいやというほど伝わってくるが、人の顔をぶった切って別人の顔とくっつける意味が全く分からない。いや、本書を読めば「安倍と橋下は一体である」という思いを表現しているのかなとは思うが、思いと表現方法の飛躍に唖然とするし、怨念は立ち上ってくるし、この表紙でもっていったい誰に読ませたい本なのか。疑問しかない。ちなみに本をひっくり返しても、小さいサイズの同じコラージュが掲載されている徹底ぶり。

橋下の2013年の「(慰安所のようなものが)必要だったのは誰にだってわかる」「米軍に風俗を活用しろと言った」という例の発言を取り上げ掘り下げており、しかもこれらの発言が、直前にあった安倍政権の慰安婦問題での失態隠しのアシストだったというわけなのだが、橋下会見の詳細の後に、謎の「編集者コメント」としてKとNというイニシャルの対談が挟まれている。誰なんだ、KとN……。

よく「(中国韓国を悪しざまに批判する)ヘイト本のつくりは粗雑」「表紙が下品」という指摘があるが、「アベ本」もなかなか負けてはいない。どこからこういう本を出す資金が捻出されてくるのか分からないようなものもある。奇書の部類に入りそうなものもある。おいおい、ここnoteにてご紹介することになろう。世界は広い。

かと思えば急に重要な記事が……

ただこの本には見るべきところもあり(だからこそそのアンバランスさや作りの雑さが余計に際立つのだが)、なかでもアジア女性基金に携わった大沼保昭氏のインタビュー。執筆は江川紹子氏が担当したようだ。二人は、江川氏を聞き手として『「歴史認識」とは何か』(中公新書)を出している。

アジア女性基金は今でこそ評判が悪いが、実は当時の日本国内では産経新聞をはじめとする保守派もそう大きな反対キャンペーンは打っていなかった。ところが韓国側の一部の慰安婦運動団体とメディアが批判し、朝日新聞も歩調を合わせていたため(逆に朝日が批判的に報じたから韓国側も認めるわけにいかなくなった、という解説もあった気がする)、日本側もせっかくの善意をフイにされたことで気分を害し、和解の道がことさら遠のいた……という話。

大沼氏はここで、おそらく朝日新聞を指すのだろうと思うが、大手メディアの関係者にこの話をしても弁解されるばかりで、「社説はいいんだけど、社会部が暴走した」と言われる、と述べている。

これは以前、私が朝日新聞のOBから聞いた話とも一致する。あの当時は社内の一部記者がまるで運動家のように論調をあおっていた、と。

慰安婦問題をこじらせた原因の一つが、日韓のメディアだという点は押さえておくべきだろう。

また、秦郁彦氏の記事も収録されており、橋下(安倍)批判一色にしていないところは評価すべきだろう。編著者の野崎ほし氏もまえがきで「資料的価値は高いと自負する」と言っているが、ならばなおさらこの表紙はなしだろう。

なぜ「あべ本」として紹介したか

この本のメインは「橋下徹」であり「慰安婦問題」である。が、それでも「あべ本」として紹介したのは、あまりにひどい表紙なので紹介しておきたいというのもあるが、何より編著者自身が、「橋下と安倍の問題点は共通している」という認識を持っており、冒頭に書いた通り橋下の慰安婦発言そのものが「安倍へのアシスト」だと考えているからだ。

橋下が嫌いな人は安倍も嫌いというパターンは多いのだと思うが、本書でも「橋下は安倍のパシリ」だと主張する(表紙下部にも書いてある…)。安倍政権に批判的な人々は、橋下、つまり維新の会と安倍政権の連携を強く警戒している。そしてこの警戒感が、政権批判者にとって大阪を中心に展開された森友学園問題と政権との結びつきに対する認識を強固にしている。

森友問題は学園と安倍昭恵氏とのつながりだけでなく、当初「瑞穂の国記念小学院」の開校を認可した維新系知事を擁する大阪府の責任問題も問われるべきではあった(実際、橋下も責任があったことは認めている)。開校許可と土地の貸借(のちに売却)は一緒に進んでいったのであり、普通に考えて昭恵氏の関与(つまり安倍総理本人の連帯?責任)よりも、認可の問題のほうが土地取引に影響しただろう。だが政権批判ばかりが声高になり、大阪府の問題はその声の前に小さくなっていった感がある。これで本当に良かったのか、疑問が残る。





いいなと思ったら応援しよう!

梶井彩子
サポートしていただけましたら、それを元手に本を買い、レビューを充実させます。