《無駄話》源氏物語がたりその6
こんばんは。
Ayaです。
源氏物語がたりその6です。
光なき世界
源氏は紫の上の死後出家、数年後亡くなりました。その死について紫式部はわざと描かず、『雲隠』という巻名だけつけました。
源氏が世を去って数年。彼の記憶は人々から薄れ、美男子ともてはやされているのは次男の薫と孫の匂宮(明石女御の三男)です。
幼いときに源氏が亡くなり、薫は父の記憶はほとんどありません。異母兄の夕霧をはじめ冷泉院などから可愛がられ、なに不自由なく育ちました。しかし、自身の出生に疑問をいだいており、若いときから出家を志してきました。
孫の匂宮は薫と正反対な華やかな性格。幼い時に紫の上から可愛がられたため、自身の紫の上と出会うべく、派手な女性遍歴を繰り返しています。ふたりは叔父と甥の関係ですが、年齢が近い(薫のほうが年下)ので親友でもありライバルであり、互いに切磋琢磨してきました。
それぞれ源氏の影と光を体現したこのふたりの恋愛模様を描いたのが、宇治十帖です。
八の宮の姫君たち
あるとき薫は、宇治に住まう八の宮という人物が俗人でありながら、仏教に精通しているという噂を耳にします。
八の宮は桐壺帝の第八皇子で、源氏の異母弟にあたります。源氏より母の身分が高かったため、源氏の須磨隠棲中、弘徽殿女御一派は東宮(後の冷泉帝)を廃太子させ彼を立太子させることを画策していました。しかし、源氏が政界復帰すると、利用されかけた八の宮も政治的に失脚してしまいます。この不遇のなか北の方との間に娘二人(大君と中の君)をもうけていましたが、妻が亡くなると娘二人を連れてど田舎の宇治へ移住してしまいます。彼としてはそのまま出家したかったでしょうが、娘二人の行末を案じてなかなか実行できず、代わりに仏教の教義に精通するようになったと思われます。
そんな彼に教えを乞おうと宇治へやってきた薫ですが、たまたま彼の娘たちを垣間見てしまい、特に姉の大君へ激しい恋心をいだきます。
八の宮が亡くなるとふたりを甲斐甲斐しく世話をしながら、薫は大君を口説きます。しかし、大君は父と同じく出家を志しており、彼の想いはありがた迷惑でしかありません。残すこととなる妹の中の君と結婚させようとしました。これを知った薫は、遊び人の匂宮に中の君のことを話し、興味を持った匂宮は強引に彼女と関係を結んでしまいます。これを知った大君は心労のあまり亡くなってしまいました。
大君の死後、薫は女ニの宮(匂宮の異母妹)と結婚しましたが、愛する大君を忘れられません。ついには匂宮の妻となっている中の君を口説こうとしますが、彼女が匂宮の子を妊娠していると知るとさすがに手を出せませんでした。
中の君にとって薫はストーカーにすぎませんが、後ろ盾として必要な存在ですので対応に困りあぐねていたとき、ある人物が助けを求めてやってきます。
その人物は昔八の宮に仕え中将の君と呼ばれていた女性でした。実は八の宮の北の方の姪で、北の方の死後一度だけ八の宮と関係をもち、娘・浮舟を出産しました。しかし、八の宮はこの娘を認知しなかったため、中将の君は娘を連れて受領のもとへ嫁ぎます。この再婚相手は浮舟に冷たく、中将の君は娘と身分の高い男性との結婚を強く希望していました。理想通りと思われた縁談がやっとまとまりそうだったとき、浮舟が再婚相手の娘ではないとバレ、財産目当てだった男性は実の娘(浮舟の異父妹)の方に乗り換えたのです。さすがに娘が可哀想になった中将の君は、異母姉にあたる中の君に少しだけ面倒を見てもらうよう頼みます。
浮舟と会った中の君は驚きます。実妹である自分より亡き大君にそっくりだったからです。薫のつきまといに悩んでいた中の君は、これ幸いと彼女を薫に紹介します。薫は田舎育ちなのが気に入りませんでしたが、大君そっくりな彼女を引き取り、宇治へ連れて行きます。
薫に宇治で囲われるようになった浮舟。しかし、ある人物が運命を狂わせます。
匂宮です。実は浮舟が中の君の元に身を寄せていたときに彼女を見初めて関係を持とうとしましたが、彼女の乳母の機転で未遂に終わりました。その後、薫が彼女を宇治に囲っているらしいと知ると、薫になりすまして彼女に近づきます。浮舟が気づいたときにはすでに遅く、抵抗できないまま関係を持ってしまいます。こんな馴れ初めでしたが、薫にはない匂宮の激しい愛情表現に惹かれていく一方、長年尽くしてきてくれた薫への罪悪感に苦しむ浮舟。とうとう薫にバレ、耐えきれなくなった彼女は辞世の句を残して姿を消します。遺体は見つかりませんでしたが、世間体を守るため病死として処理されました。薫と匂宮は悲しみながらも、彼女との恋を忘れるため、それぞれ新たな恋にのめり込むのでした。
しかし、浮舟は死んでいなかったのです。行き倒れになっているところを、ある僧に助けられていました。
僧の妹が昔なくした娘に浮舟を重ね甲斐甲斐しく世話をしてくれましたが、その亡き娘の元婚約者という男から求婚されます。男女関係にこりごりだった浮舟は彼の求婚から逃れるため、出家してしまいました。
出家からしばらく経ったころ、彼女の生存を聞きつけた薫が使者を送ってきます。その使者とは浮舟と一番仲がよかった異父弟で、勿論連れ戻すつもりでした。しかし、すでに俗世への未練を断ち切った浮舟は『お人違いでしょう』と相手にせず、異父弟はむなしく帰ってきます。異父弟から報告された薫は浮舟が自分を拒否したのが信じられず、『どうせ新しい男に囲われているのだろう』と思うのでした。
なぜ紫式部は宇治十帖を書いたのか?
以上が宇治十帖のあらましです。
宇治十帖の登場人物たちは浮舟以外自分の幸せを見つけられません。
そもそも信心深かった薫が、大君への恋情のために彼女本人や中の君、浮舟を振り回し、拒否した浮舟のことを『男に囲われているに違いない』と思うあさましさ。
匂宮の女性遍歴は途絶えないでしょうから、中の君は夫の浮気に苦しむでしょう。また、彼女は長男を生んだものの、紫の上のように弱い立場なので、もうひとりの妻六の君(夕霧の娘)がこどもをうめば、そちらが跡取りとなるにのは確実です。
このように、本編以上に厭世的な内容なため、作者は紫式部ではなく娘の大弐三位などの別人ではないかと長年言われていました。しかし、使用されている語彙の範囲がほぼ同じなので、現在では紫式部本人だとされています。
ではなぜ、こんなにも厭世的な内容を紫式部は書いたのでしょうか。
そもそも一条天皇の足を娘のもとに引き止めたい道長と大好きな物語を書いて娘を養育していくための給金が得られる紫式部という、互恵関係だったはずです(『光る君』のように相思相愛か置いといて)。いわば、彼女にとって道長はパトロンであり、彼の意向に沿って物語を執筆したでしょう。
しかし、この関係は一条天皇の崩御後、変わります。道長の天下は確実なものとなり、あまりの傲慢さから実の娘である彰子との関係も悪化しました。当然、彼女に仕える紫式部とも疎遠となったでしょう。そのとき、紫式部はパトロンの意向を気にすることなく、自分の思い通りにかける自由を手に入れたのではないでしょうか。
本編で紫の上の苦悩を描くことで、男の身勝手に振り回される女を書きました。だけれど、本当は男のほうが現世に囚われ振り回せているのではないかー。
そんな思いがあって、紫式部は宇治十帖を書いたのではないでしょうか。(私の妄想ですが)
大河ドラマも佳境を迎えつつあり、6回の長くに渡って連載してきた源氏物語がたりも今回で最終回です。
桐壺更衣
藤壺
紫の上
明石の君
花散里
朝顔の君
六条御息所
朧月夜
女三の宮
光源氏
夕霧
桐壺帝
薫
匂宮
大君
中の君
浮舟
とたくさんの人物について書くうち、読み返したくなってきました。
完全にHENTAIの趣味にお付き合いいただき、ありがとうございました。