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共に分かち合える未来のために
【あやかんジャーナル 配信12】
昨日はトランプ大統領の就任式でした。
私が大学に通うニューパルツ村があるニューヨーク州では、トランプ大統領に反対する抗議デモが開かれました。ハウスメイトのジョアンヌが運転する車に乗せてもらい、二人でデモを見に行きました。
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様々な年齢や性別の人が反トランプ・デモに参加していました。
トランプ大統領は過去の過激な発言から、一部の反対者から女性蔑視の大統領だと非難されています。そのためデモにはフェミニスト団体も多く集まり、インパクトのあるプラカードを掲げていました。
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「女性の権利は人権だ」という意味です。
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「Pussy is my Power(膣は私の力だ)」つまり
「女性の力を見くびるな」といった強い意味合いの表現です。
また、トランプ大統領のことを人種差別主義者だと認識する人も多く、切実な言葉で平等を訴える人の姿も目立ちました。
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「No Bigotry No Racism No Hatred」
これは「偏見をやめよう。人種差別をやめよう。憎しみをやめよう」という意味です。
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多くの参加者たちが声を合わせて、トランプ大統領を批判するシュプレヒコールを唱えていました。批判というより罵倒に近いフレーズもたくさんありました。私のように反トランプ・デモをただ見物にきた人や、軽い気持ちで参加した人もいたかもしれませんが、ほとんどの人は真剣な顔でアヴェニューを練り歩いていました。
「昨年の11月から、ずっと鬱状態なんだよ」と、苦痛な心情を見物人の私に打ち明けてくる参加者もいました。
なかには、抑えきれない強い怒りを露わにしながらシュプレヒコールを叫んでいる人もいて、今にも爆発しそうな危うい雰囲気に、私の方が見ていてヒヤリとさせられました。
しかし幸い、反トランプ・デモは途中で暴力や口喧嘩などは起こらず、穏便に終わりました。
デモの帰りに、ジョアンヌとニューパルツのダイナーに立ち寄り、二人で軽くお茶とケーキをいただきました。デモは穏便に終わったものの、なんだか後味が悪く、私たちは二人とも、まっすぐシェアハウスに帰る気分になれなかったからです。「お茶でもしていこうか?」と私が誘うと、ジョアンヌも「そうだね」と静かに頷きました。
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どうして、こんなふうにモヤモヤした気持ちになるのだろう?
自分に問いかけてみました。
デモが自由にできるのは良い国であるはずです。シリアでは一般市民がデモに参加しただけで、何年も投獄されてしまいました。
「今日からアメリカ、どうなるんだろうね?」
ジョアンヌが注文したキャロットケーキをフォークでつつきながら、憂鬱な声でぼそりと呟きました。
私は、はっと気づかされました。
今日のデモで私たちが目にしたのは、アメリカの「分断」そのものだったのです。
反トランプ・デモに参加した人と同じ数だけ、トランプ大統領を大好きな人がいる。そんな当たり前のことが、青い州であるニューヨーク州に住んでいると、見えなくなります。ニューパルツ村で、私はアメリカの半分しか見ていないのに、全部を見た気になってはいけない。改めてそう思いました。
「ねえ、そのキャロットケーキ、美味しい?」
テーブルの向かいのジョアンヌに話しかけると、彼女は目の前の食べ物になど関心なさそうに、「美味しいと思う人にとっては、美味しいんじゃない?」と素っ気なく答えました。
「なるほど。言い得てるわね」
そう。まったく同じ一切れのケーキでも、美味しいと感じる人と、まずいと感じる人がいる。
同じアメリカの街並みも、見る人が違えば、美しい風景にも、殺伐とした風景にもなるのです。
トランプ大統領が就任演説で言っていたように、これからアメリカに「黄金の時代」が来ると期待する人と、地獄の日々が始まると絶望する人が、共存している国。それがアメリカです。
私はジョアンヌの皿がいっこうに減らないのを眺めながら、ふと胸に湧いた疑問を口にしました。
「どうしたら、みんながキャロットケーキを好きになれるんだろう? 好きになる、とまではいかなくても、せめて『まぁ食べられるんじゃない』くらいになるには、どうしたらいいんだろうね?」
ジョアンヌはしばらく首を傾げていましたが、やがてこちらを見ると、
「このケーキの良いところを見つけるまで、毎日食べ続けるしかないんじゃないの?」
と言いました。
「嫌いなものを無理して食べるってこと? それじゃあ、今日のデモにいた人たちに、トランプを好きになれってこと?」
「違う、違う。キャロットケーキのことでしょ! このケーキはまずいけど、よく考えてみたら、カロテンとビタミンAが豊富なんだよ。それってチョコレートケーキや、チーズケーキにはない魅力だよね? それに低カロリーだし、何といってもヴィーガンでも食べられる。明日の政治とか大統領とか、大きなことは置いておいて、まずは目の前のケーキから、少しずつ長所を見つけていけばいいんだよ。だって、小さな『嫌い』を減らしていかなければ、大きな『嫌い』について話したって、答えは出ないでしょ?」
明日からのアメリカがどうなるか。
確かにそれは、私たちには大きすぎる話です。
それでも、私は期待してしまう。
いつか、分断の溝が今よりも小さくなる時代が来るのではないかと。
互いの譲れない主義を変えることはできないけれど、せめて分かち合うことはできるかもしれない。
そんな未来を見てみたいんです。
共に分かち合える未来を夢見て、私はジョアンヌとキャロットケーキを分け合いました。
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