ノーと言えない女が「自分を探さない旅」で見つけた「自分」
映画作品名:百万円と苦虫女
監督名: タナダユキ
【あらすじ】
鈴子(蒼井優)は、ノーが言えない女の子。友達の彼氏とのルームシェアという非常識なお願いにも、困ったような笑顔で受け入れてしまう。そしてそれがきっかけで前科持ちとなってしまい、新たな土地を転々とする旅に出る。
彼女は旅先で「100万円が貯まれば次の土地へ移る」というルールを自分に課す。それは人との「面倒事」を避ける上で都合よく働いた。しかし、テレビ出演での「桃娘」PRをお願いされたり、ガーデニングショップの中島君(森山未来)と出会ったりする中で徐々にそのルールが崩れ、やがては「面倒事」そのものに彼女の意識を向かわせることになる。
【みどころ】
ケンカするほど仲がいい、という言葉がある。
人と日常の時間を長くともに過ごしていると、色々な事でぶつかる。たとえ家族や恋人同士であっても所詮他人同士、考えや行動が常に一致することなんてありえないからだ。
一方、主人公の鈴子は、はなから人とぶつからないでいることが人付き合いの術だと思っている。ぶつからないでいるというより、ぶつかることが怖くて出来なくなってしまっているという方が正しいかもしれない。
相手が身近で大切な人ほど、ぶつかることへの恐怖は強くなる。鈴子にとって、旅先で出会った桃農家の人々や中島君にノーを突き付けることに相当な勇気が要ったはずだ。彼女のか細い身体から絞り出される「桃娘なんて私には出来ません」、「なんで他の女の子とのデート代出さなきゃいけないの」というセリフは、人と衝突したり決別したりすることの恐怖を乗り越えた末に、発せられている。
監督のタナダユキは「大切なものはいとも簡単に自分の手から離れる」ことを意識してこの映画を作ったという。口下手で争いごとが苦手な人にとっては、耳の痛い映画かもしれない。結局一番怖いのは、どんな関係性であれ、自分が無機質になってしまうことなのだ。