星空の散歩時間
夜にスーパーに買い出しに行った帰り。駐車場に着いて夜空を見上げると、オリオン座を見つけた。
寒いことも忘れて首を伸ばし、星空を指差しながら色々な星座をみつける。すると、小学生の頃、特に好きだった時間を思い出して懐かしくなった。
それは街灯と手持ちの懐中電灯の光を頼りに、父と犬の散歩に行く時間。
今でこそ、帰省すれば父の運転する車の助手席には私が座り、仕事のことなどについて父と話すことが増えた。どうでもいい話もするが、父には人との関わり方について相談することが多い。
しかし大学を卒業する手前までは、父としっかり話した記憶があまりない。父とは少し距離があり、もっぱら相談相手も喧嘩相手も母ばかりだった。
私にとって父は長年不思議なひと。怒らないし、押し付けてくることもない、何を考えているのかわからないひとだと思っていた。
そんな父とふたりで過ごした時間の多くを、犬の散歩の時間が占める。父と犬が前を歩き、数歩後ろを私がついていく。時折ひとり止まっては星空を眺めて、小走りで父と犬に追いついたこともあった。
毎日約30分前後、いつもはお喋りな私があまり喋らない時間。父もあまり話すタイプではないので、少し遅れてついてくる私をちょうど良い距離感で放っておきながら、ただ犬の気分が赴く方に歩いていた。
犬の行動にふふっと笑ったり、用を足したらその処理をしたり、犬という共通話題以外はお互いあまり干渉しない。犬のはふはふという呼吸の音と足取りが響く、不思議な時間だった。
普段は沈黙が怖くなり、余計なことまで話してしまうのだが、この無言の時間はとても心地よく、とても好きだった。
その感覚を久しぶりに星空が連れてきた。
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