全然知らん人の家に成り行きで泊まった話
【アラサーにもなってなにをやっているんだ】
多分このタイトルとプロフィールを見て下さった読者さんは多少の好奇心でクリックをしてくれたんだと思う。
ある日、私は全然知らん男の家で酒を片手にしていた。外は大雨だった。
一応名前は聞いてみたけど、本名である確証は限りなく低い。
そもそも確認する手立てもない。
そもそも会おうか!となる2日前には、お互い存在すら認識していない通行人だった。
なぜこんな稀有な体験に至ったのかは、私の元の職業も多少の関連性がある、のかもしれない。
長年ホステスで生計を立ててきた人間としては、お金が絡む絡まないに限らず、こんなに長期間もの間、初対面の人とお酒を飲むという機会がないのは焦燥感に駆られるような、寂しさとは違う別の感情が芽生えていた。
毎日ご飯を食べる、トイレに行くレベルのルーティンとして、染みついていたせいかもしれない。
指名のお客様以外のフリー客への接客は、情報もほぼない中「はじめまして」から顧客として獲得するまでにかなりの心理的スキルが要求される。
新規客は、沢山のキャストが代わる代わる顔見せに着席して、限られた時間内で「あなたのことを理解しています」「私を指名すれば後悔はさせません」という内容をさりげなくアピールしなければいけない。
その場で決まることは稀で、場内指名(大体の店舗では場内は売上にはならない)をノリで貰ったとしても、ちょっと指名確率があがるかな?くらいで、
売上加算に加えて、この嬢の顧客という認識ができる本指名とは意味合いが全く違う。
雑な言い方をしてしまえば、フリー新規客への手応えを感じるというのは、自分のスキルを試したり、レベルを確認するチャンスでもあるのだ。
余談だが、毎回フリー入店で場内すら入れずに営業ラインというコスパのいい“かまって欲”のみ満たさせようとする人は、ほぼ裏で人間扱いされていないし、大体在籍が一周したあたりで「冷やかし」と判断されて派遣や死ぬほどやる気のない嬢が着けられる。待機席で情報も回っているので、ラインを聞くことすらしない。
レアケースも一応あって、万年フリー(店客とも呼ぶ)が初の本指名を入れた時は、私は入店1週間のド新人だったので「ミヤコどんな手使った?(=枕か?)」と聞かれたくらいだ。そのお客様は文芸オタクだったので、小説家の生い立ちを語り合ったくらいだったのだが、ホステスでこんなニッチな話ができるなんて!という、お客様と自分のオタク気質のおかげでしかない。
ちょっと話は脱線したが、よーいドン!でほぼ情報がない人間にスキルの確認、いわば腕試しをする機会がなくなり、思った。
私のスキル、錆びてきたな。
決して美人ではないが、愛嬌とノリとフットワークの軽さ、オープンマインド、多少の努力
どういう表情で、全体の服装やしゃべり方からどんな女がタイプで、お金を出してまで遊ぶのはどんなタイプなのか、営業の頻度の推測、テンション高めが好きなのか、嫌いなのか、押しに弱いのか、主導権を握りたい派なのかetc
2年も離れていれば錆びる。ほとんど初対面の異性との会話がない日常は、私にとって緊急事態だった。
ホステスに復帰する気は1割程度もない。なのに何故か、この最低限のスキルだけは現状維持しておかないとマズイ気がする。ある意味、保険のようなものだろうか。
そんなわけで、金が絡まないと絶対異性と飲まないという信条を破って、とりあえずオンラインで飲んでみた。
「ズーム飲み」「オンライン飲み会」あたりでトップに出てきたアプリを適当にDLして、話してみた。アプリを入れた瞬間から、アホかと思うほどの通知が来た。ホステススタイルで写真登録をすることもできたが、スキルアップが目的だったため、あえてスッピンをアップしたのになんの意味もなかった。
なるほど、こういうことか…。
ずらっと並んだ男たちのアイコンを見て思う。
夜の街に行くほど色恋相手に困るタイプではない、風俗に行くほど性的にも困っていない、しかし素人の女というだけで基本的に桁違いに金はかからない。それにプラスしてスッピンを登録したことによって、自分が主導権を握れる可能性も高いと思われたんだ、ということが想像できた。
特に、がっつきメッセを送ってきた男性陣は、このアプリでそこそこの成功体験がありそうな人が多かった。コロナ渦でオンライン飲み=宅飲みならオンラインよりいいじゃん、お店開いてないし?という誘導が実にスムーズだった。以前は最終ハードルだった宅飲みが、居酒屋の自粛によってステップを飛ばすことこそ正しい、という認識になったのはコロナ渦のもうひとつの闇だと思う。
その中で、自分が全く関わったことのない人種の誘いに乗ってみた。
基本的にオシャレ男子は全くタイプではない。悪口でなく意識高い系男子は自分の中で管轄外。あまりに意識高そうなオシャレ男子だったので、スキルアップより好奇心が多少優勢になった。
例えて言うなら、多くの人はハダカデバネズミの生態より、かわいらしいトイプードルの生態を知りたいと思うだろう。
私はどちらかというとニッチな知識や体験を蓄えることに喜びを感じる人間だ。
今までハダカデバネズミの研究をしてきた人間が、メジャーなトイプーを知ることも、メジャーだが知らないことを知る、という点では意味があるのかな、と思い至る。
そんなわけで便宜上、おしゃれな髭に丸メガネをかけていたので、オシャヒゲと呼ぶことにする。
オシャヒゲの家は、個人情報になるので詳しく書けないが…バルミューダだった。男性向け雑誌のMONOや、男性向けモテ男シリーズが掲載されている某雑誌で死ぬほど見たバルミューダが、理路整然と並んでいた。ホステス時代に、男心を知りたければ男向け雑誌を読め!と言われて素直に読んでいた私には衝撃だった。
デザイン性は確かにいいが、コスパは悪い。ド偏見だが、女に「男性の部屋ってスタイリッシュね」という印象を持たせるのが8割、あとは意識高い系が「俺の家の家電はバルミューダ」と自己承認欲求や、バルミューダというコスパよりデザイン性にステータス全振りできる男だという自己認識料金が2割程度だと思っていた。それを実際に実践してる人がいるんだ…というのも込みでの衝撃。
ここまできて、異文化交流している感がマックスになった。バルミューダで思い知る異文化。
これが1つでも象印やシャープだったら、ここまでの衝撃は受けなかったんだろうと思う。
もっと言えば、私はブルーボトルの例のコピペで大笑いする側のメンタリティの持ち主だということと、スタバでMacを開くより、CPUの性能とソフトの互換性重視でパソコンを選び、マルチと裏社会が蔓延るルノアールで多少高い席代を払って、ふかふかのソファで電子タバコ貰い放題を満喫しつつ、周りの会話をニヤっとしながら聞くタイプだ。
恐らくこの人はメンタリティがスタバ派だろうな。そして、マリアナ海溝より深い溝が存在するんだろうなぁ、と、酒を片手に浅い想像をしていた。
桃鉄をして、コントローラーが当たり前に2個ある時点で色々察する。
まぁ桃鉄に罪はないので、久々に対人戦を楽しんだ。ゲーマーはどこまでいってもそういう生き物。しかし、マス目に迷っているとサッとコントローラーを奪って的確な目に進めてくるあたりで、ゲームしてても女慣れ要素って出るのか…と謎の感心をした。
ただ、オシャヒゲは普通に女慣れしていたため、スキルアップする余地も特になく、ただ生態観察と世間話と、久々にほぼ知らない人と酒を飲んで泥酔した。次の日、起き抜けに吐いた。流石に反省した。
ただ、この異文化交流で得たものもある。
まず、金が絡まない酒は飲みすぎるということ
女慣れしている人は喋ってて楽だが、決してスキルには繋がらないということ
オンラインで喋った時の直感は、リアルでもあまり変わらないこと
普通に現職と元職種では関わらない人、関わろうと思わなかった人のライフスタイルへのイメージに間違いはなかったということ
どちらかといえば知り合った初期のころは主導権を握りたい人間だというセルフイメージの再認識
色々書いたけど、一晩お世話になったのは紛れもない事実なので感謝を述べる。
あと、このオンラインからのオフライン活動が活発なご時世の自己防衛として、個人情報が漏れたり万が一盗まれたら困る、免許が入った財布などは一切持って行かなかったのと(スマホの電子決済で全部なんとかなるし)
お酒にドラッグなどの混入などがないように未開封の缶、瓶、または作る工程を真横で見るのは大事だと思う。
マジシャンレベルだとどうしようもないけど。
昔の同僚から、バーが店グルで酒に睡眠薬を盛られててレイプされたことを泣きながら相談された経験からも、この時代だからこそ強く発信したい。
徹底してる子は、アフターに行く前に必ずタンポンを入れる。徹底的にゲスい男は、タンポンが入ってても諦めないんだけど、多少萎える効果とレイプされたかどうかの確認はできるからアフターピルを飲むまでの確認時間が短縮される。それによって妊娠しない確率が上がる。
知らん人に会ってみた私が発信しても、あまり説得力はないかもしれないけど、好奇心から取り返しのつかない後悔をしないためにも自分でできることは最低限でもするのは大事だよねって話で〆ます。