実行力のあるリーダーは知っている #01「働き方改革のルール:前編」
依然として続く保育者の人材難に加え、不適切保育に関わる報道等も影響し、保育者の働く環境の改善・働き方改革が大きな課題となっている。
弊誌編集部では、40代の若手経営者である野上美希・社会福祉法人風の森統括、松山圭一郎・社会福祉法人山ゆり会法人本部長との対談を実施。異業種から保育の世界に飛び込んだふたりだからこそできた、保育の「当たり前」を革新させた働き方改革が見えてきた。
(掲載メディア:「遊育」2023年2月28日号)
「当たり前」の壁との衝突
――さっそくですが、おふたりは2009年に異業種から保育・幼児教育の世界に参画した、という共通点があるそうですね。参画した時の、率直な感想を教えてください。
野 上 私は、最初は幼稚園の運営に携わったんです。
その時に感じたのは、「(現場は)本当に大変そう」ということと「働く環境が整っていない」ということでした。
前職でマネジメントを担当した経験もあったので、すぐに「この環境はいかがなものか」と指摘したのですが、職員から「そういうものです。それがこの業界の当たり前です」と反発されて、驚愕したのを覚えています。
それと、営業の世界から保育の世界に飛び込んだので、到達目標がない、ということにも衝撃を受けました。
「10の姿」などで考えるとイメージしやすいと思うのですが、対・子ども、となると、具体的な数値目標があるわけでもないし、それができなればいけない、というものでもない。そのなかで運営を考えていくというのは、とても難しいことだと思いました。
松 山 僕が保育の世界に入ったとき、創設者の保育理念・方針については、職員も共感している部分が大きかったのですが、当時の働き方のままでは、理想とする保育の実現は難しい、ということが最初に覚えた課題でした。
他方、経営目線で見ると、保育業界は、4月の段階でその年の収入が決まる。数字をあげることにとらわれずに経営に集中できる業界だな、とも思いました。
その一方で、前職は、常に売り上げ・数字を求められるという世界でしたから、そのギャップに驚いたのも事実です。
当時は、待機児童問題の解消を国が掲げていたので、規模拡大というところにモチベーションを持っていきました。時流に乗れた、という側面も大きかったですね。
野 上 当時の私の原動力は、「働く女性を支援したい」という強い思いでした。
私には、出産をきっかけに、〝それまで仕事で築き上げてきたポジションを、子育てしながら維持することが難しくなってしまった〟という苦い経験があるんです。その経験をバネに頑張りぬけたんだな、って思います。
働き方改革の〝礎〟とは
――そんな「保育の当たり前」との戦い、働き方改革はどのように進めていったのですか?
松 山 業務のてこ入れもそうですが、「変えていくことが当たり前」という文化を醸成するのも、同じぐらい大切だと考えています。
そのためには、〝てこ入れによって、少しずつよくなっている〟ということをそのつど職員に実感してもらうこと、取り組みを定期的に振り返ることが大切だと思います。
例えば、集金方法、写真販売の袋詰め作業など、「数年前は不便だったけど、今はよくなってるよね」と声をかけて気づいてもらって、次の取り組みにも前向きに着手できるようにしています。
常に、その積み重ねですね。
野 上 私は、休憩がしっかりとれる、残業がなくなる、有給がとりやすくなる、といった職員の働き方に還元されていることが、実感につながっていると考えています。
職員のアンケートを行っている法人さんは多いかと思いますが、風の森では、調査会社を通じて働き方改革の項目との相関の分析もして、見える化した状態で職員に伝えるようにもしています。
それに加え、若い人へのリスペクトを持つことも大事だと思っています。新しい感性を常に取り入れることが、子どもたちにとっても、園にとっても、大事だと思っているので。私も「教えて~!」と気軽に聞くようにしています。
松 山 僕も、入職時は特にですが、職員との関わりについては、「教えてください」精神を持って接することも大切にしていました。保育に関しては、素人でしたから。
それと、保育の世界に入って3年目のとき、本当にすばらしい環境の園に訪れたことがあったんです。
その園は、子どもと向き合う時間は徹底的に向き合って、事務仕事とのメリハリをきちんとつけていた。当然、夜に残業するなどのしわ寄せはあるものの、その環境に惚れ込みました。
それ以来、毎年、職員をその園に連れていくようにしているんです。現地に行くと、感動するあまり、茫然自失となったり、涙をながす職員もいたりして……。
「あの保育をうちの園でやるには、働き方改革が必要だよね」と思ってくれる。だから、理想となるモデルを見つけることも大切だと思います。