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園長探偵団 #1 「暮らしのうらら」の秘密に迫る!
子どもの暮らす世界は、実にさまざまな魅力を持ち、その多くは園の中に潜んでいる。
保育に携わる仕事をしているうちに、子どもの世界にやみつきとなった若手の園長と編集者が、園を徘徊し、その魅力を発掘し、記録する作業をはじめた。その活動記が「園長探偵団」である。
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明治時代までは、「建築」ということばは存在せず、畳を単位とした家を大工が設計から施工・営繕までを担っており、江戸のまちの風景は一定の秩序を保っていた。
それから150年あまり、東京は、無秩序な建物がつぎつぎに生まれては消えを繰り返すまちへと移りかわり、増殖する様子になぞらえ、メタボリズム(=細胞分裂)と形容されるようになった。
そんな東京・下町の一角に、日本人の原体験、原風景を刺激する保育園がある。
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東京都葛飾区、JR新小岩駅から北西に20分ほど歩いた場所にある、社会福祉法人清遊の家「うらら保育園」だ。
5月某日の午後、園長探偵たちは、入口の門をくぐって左手すぐにある円柱状のはなれで、齊藤真弓園長とちゃぶ台を囲んで話しこんでいた。
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これは、藤原探偵助手の本業(フリーライター)を兼ねたもので、遊育5月22日号掲載の齊藤園長のオピニオン「こども基本法施行 こども大綱を前に『こどもの権利』を考える」の取材である。
取材兼探偵団との意見交換会の場で、トイレのために中座して以降、村上探偵はひとり葛藤していた。
目の前で繰り広げらていれる「こどもの権利」についての議論はすごく面白い、しかし…………
はやく園の中が見たいのである。
「そとで遊ぶ保育者と子どもの距離感がすごくいい!」
門から取材会場であるはなれまでの距離はわずか10数歩、村上探偵はその距離のなかで、園庭で遊ぶ男性保育者と子どもの様子をめざとく見つけ、さっそく園の良さに気付いていたのだ。
それにくわえて、村上探偵は、トイレに立った際にも挨拶された職員との距離感にもいたく感動したよう。彼は、今回「距離感」に着目して捜査するようだ。
取材も一段落し、探偵たちは園舎内に潜入。さっそく調査を開始した。
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村上探偵が着目したように、日本建築の建具は、他者との絶妙な「距離感」を演出する。
障子に影が映る様子や、鴨居のうえの空間により音が響くことにより、いわゆる「息づかい」が感じられるよう設計されているのだ。
また、〝バリアフリー〟〝ユニバーサル・デザイン〟という言葉が定着し、段差が姿を消している昨今だが、うらら保育園にはその段差がいたるところに存在する。
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「段差」は面白い。ただの階段や空間を分けるためにあるものかと思いきや、腰掛ければそのまま長椅子に変わるのだ。
うらら保育園にある段差は、子どもたちの発想によって次々と姿を変える。
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うらら保育園がうたうのは「長屋暮らしの大家族」
3・4・5歳児は「幼児三家」とよばれる3つの異年齢クラスに入る。
〝家〟という言葉が用いられているように、うらら保育園の単位は「家族」である。
「○○家」「▲▲家」のように、それぞれの担任の保育者の名字がクラス名となり、父ちゃん・母ちゃんの役割を果たし、〝暮らし〟を営むのだ。
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また、食卓はちゃぶ台を用いている。四角い食卓やテーブルは、座る人数を自然と制限してしまうものだが、円形のちゃぶ台は、詰めれば何人でも座ることができる。
簡単に持ち運ぶことができるため、食事をする場所を毎日のように選ぶことも可能だ。
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一方、「暮らし」「主体性」をキーワードに園を訪れた裏部探偵は、使い込まれた建具や家具に魅了されていた。
つかいこむほどに〝味〟がでる。これは、日本をはじめとするアジア圏の〝もの〟の特徴である。
特に気に入ったのは、たくさんの茶碗や湯飲みが入った食器棚。
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そのひとつを手にとり、齊藤園長は説明する。
「うららでは、幼児三家(3歳児)からひとりひとり食器を選び、それを卒園まで、つかい続けます。
それによって『自分のもの』という気持ちが生まれてゆくんです」
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陶器の茶碗は、かけやわれが起きやすい。
『かたちあるものはこわれる』
「こわれないようにするにはどうするか、こわれたらどうするか、ということはおとなに〝こうしなさい〟と言われたからするものではないですよね。
もし、茶碗を割ってしまったら、それは子ども本人の責任。それをしかるわけではなく〝残念だったね、どうしよっか〟と声をかけて寄り添う。
どうお別れするか、葬るかを考えるのが責任のあり方だと考えています。
壁に埋め込んでみたり、ザリガニの家にしてみたり、お別れの仕方はさまざまです」
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はなれにもどり、興奮気味に感想をいいあうなかで、同園での修行経験のある中西探偵はうららの暮らしについてこう語った。
「空気感、というか〝感性に働きかけること〟をものすごく丁寧に、大切にしている園だと思います。
職員も〝ここにいていいんだ〟と誰に言われることなく思える、それが子どもたちの居心地の良さにつながっているんですよ。
それは、きっと〝感性〟的な部分だと思います。ここで保育したいな、という人は多いはず。僕も感性に働きかける園をつくり、そんな園が広がっていけばいいな、と思いました」
この後、探偵たちは、齊藤園長とともに、捜査会議(飲み会とも言う)に向かうべく、新小岩の雑踏の中に消えていくのであった。
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次回へ続く!