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「言葉は身体は心は世界」の照り返し(1)

「言葉は身体は心は世界」増訂版の8月1日発行に際して、これまでこの本に触れてきた方々にこの作品へのコメントをご依頼してみました。題して「照り返しシリーズ」として、少しずつご紹介していきます。

本の各所に記されている表現を借りるなら「ボールを投げてみて」「その輪郭をなぞってもらう」と言ったところでしょうか。結果、とんでもなくキラキラゆらゆらした、しかし確かな手触りのボールたちが返ってきました。「耀う(かがよう)」という言葉がピッタリ。

自分とは別の存在の輪郭をたどるとき、それは自分自身の輪郭も等しく押し返されながらたどる時間となります。それぞれの言葉を読むほど、書いてくれた方のことをまた少し知ることができたようで、逆にこの本の正体を(もともと筆者自身もつかめてないのが益々)つかめなくなったようで、決して私ひとりだけのものではない多面体の新たな面を発見して面白がっている自分がいます。

初回は、「言葉は身体は心は世界」を初版時唯一書店としてお取り扱いくださり増訂版も引き続きお世話になるbullock books、何かと縁が交錯して今では和歌山ー静岡の互いの家に旅しあう仲ののばなしコンさん、そしてこの作品の制作者のひとりである意味「制作の仕掛け役」でもある阿部航太さんから。
コンさんと阿部さんから共通して「おさまり」という言葉が出てきたのはあまりに偶然。最近は個人的に「おさまりどころ」について内省していたところだったので、はからずも言い当てられたようでドキッとしています。


bullock books(栃木県矢板市の本屋)


2歳から10歳の時期を米国で過ごし、英語と日本語を行き来しながら言葉を降ろしてくる巫女的な感性で「言葉をかいて」いる著者。
自己を内省しかつ社会へと解放していくような一冊。

bullockオンラインストアより

<プロフィール>
栃木県矢板市にある古書・新刊の本屋。『言葉は身体は心は世界』は初版時より店頭/オンラインストアで取り扱っている。
*10月7日(土)に「『言葉は身体は心は世界』増訂版巡回ツアー」巡回先としてイベント実施予定!


のばなしコン(肉体屋/ダンサー/振付家/どうぶつ体操主宰/わな猟師)

とびきり博識で仙人のような達観もありながら
とびきりの人間的な心の揺らぎや愛情とともに
相手に近づける大海原のようなふところで
にんげん&どうぶつ、都会と自然
色んな二極を抱きしめながら
ゆらゆら多面体として生きれるような
そんな素敵なひとです

以前、彩恵さんとのトークを企画した際、彩恵さんが私の紹介としてSNSに挙げて下さった言葉です。以前、富士吉原で行ったWSの一コマ、というか子供とじゃれている私の動画と共に書いてありました。とびきり嬉しくてスクショしてiPhoneのお気に入りに入っています。

2023年3月、『言葉は身体は心は世界』を読んでいて「名前は多いほうがいい」に吹っ切れてそれまでの名前であった「齊藤コン」から野放し宣言して「のばなしコン」になりました。野放しだったり「〜の話」かもしれません。
そして、それまでの「ダンサー・振付家・わな猟師」という肩書きに物足りなさがあったので「肉体屋」をプロフィールの先頭に押し出す形にしてみました。多分これならおさまりがつくでしょうということで。

この本のテーマにもなっている「世界」という言葉は私には壮大すぎるのでとりあえず「おさまり」とでも呼んでみましょうか。
言葉のおさまり、身体のおさまり、心のおさまりがつく時、つかない時ってあると思います。それってかなり切実だと思います。特におさまりのつかない時ってかなり気になるところですが、それもある意味では存在の仕方であるので、おさまりのつかなさを無かったことにしないでざわめきがあるねとちゃんと目をかける。そこに目をかけつつ、そことはちょっと違うところを動かしてみる。その違うところを見つける力はどこから湧いてくるのでしょう?
そしておさまりがついたと思っても、そのおさまりのなかで物事は変化しているのでまたおさまりがつかなくなる。その繰り返しだとも思います。どれだけその行き来ができるかというのは豊かさだと思います。

ちょっと私のおさまりのつくようでつかない「そわそわ」の話を少し。
できることなら私は良い土になりたい。そのためにも色んな生活をしたい。色んな巣を作りたい。土を掘ってモグラのような巣を作りたい、樹上生活もいい、移動しながらの生活もしたい。関東にいた頃、切実にそう思い、ご縁があって和歌山県の那智山のほぼ廃墟のような建物を直しながら(強風で外壁が飛んだりするので壁に張り付いて直したり)住んでいます。
それまでは家屋というのは堅牢で自分では壊せないものと思っていましたが床や天井を剥がしたり壁を直したりしているうちに、それまで自分は家屋をすごく信頼していて動かないものだと思い込んでいたなと猛省しました。人間のような大きくて馬力のある生き物がその気になって暴れればいくらでも壊せるんだなと。ジャッキー・チェンがアクションの中で色んなものを破壊しながら物事を進めていくのは実際にあり得る。人間はいつもかなり気を遣って生きているものだと思うし、それが最適化しているのをとても感じる。そして山なのでそのちょっと頼りなさそうな家屋にものすごく守られていることも切実に感じます。さながら家屋という体内にいる微生物のような気分とでもいいましょうか。できれば内臓たちには爽やかな気分でいていただきたいのでちょこちょこ直したりしつつ、散らかしたりという日々です。しかし段々とこの生活への居つきにも停滞があって、もしかしたら全く違う生活を始めるかもしれない。やっぱりもっと山奥で巣を作ったりするかもしれないし、急に都会に出て、アパート暮らしをする可能性もある。どんな暮らしもできるだろう。いつも何か物足りなくてそわそわしてしまう。だから動けるというのもある。このそわそわやおさまりのつかなさは大事にしていきたい。
そもそも私はいつもそわそわしている。そわそわこそが私なのかもしれない。だからダンスで獣や流れ、根っこなどに変容することを目指している。

未完成でどんな可能性も残しているまま成長していく、そんなことができる人間は奇跡的だと思います。

そういったスッとおさまるようでそわそわもある人間たちのさざめきが文に、本になっていて私の本棚におさまっている。背表紙が薄いピンクといいますかちょっと肌っぽい色。そして薄い赤で文字。唐突な私のイメージですが子供の頃、暗い中で自分の手や足に懐中電灯を当てて赤いスケルトンにして遊んでいたことを思い出します。なんだか自分のようで自分でないようなわくわくする感覚があります。

<プロフィール>
人間はどんな変容ができるのかを探り、実験し、発表し、広めていく。
生物学・文化人類学・哲学、自らの山での狩猟採取や都市での生活の往復などを通じてダンス・パフォーマンス作品の制作・発表、WSを開催。様々な生き物の生活や働きの多様性から人間はどう生きることができるのか個人個人のらしさが尊重されるために働く。 また、アニマルコンちゃんとしてさまざまな生物の動きをモチーフにしたどうぶつ体操を主宰。幼児から大人まで様々な年齢層に普及。
2021年、拠点を和歌山に移し野山を四足で駆け巡る。海からは貝、山からは鹿を食す。
2023年、齊藤コンからのばなしコンに改名。



阿部航太(デザイナー/文化人類学専攻)


はじめ、瀧瀬さんが「名刺をつくりたい」と声をかけてくれたんです。瀧瀬さんとは、その数ヶ月前に別の仕事で一度お会いしただけだったので、名刺をデザインするにあたって「もうちょっと瀧瀬さんのことを教えてほしい。名刺で伝えたいことってどんなことですか?」と聞いたら、言葉たちが溢れ出てきて、どうにも名刺には収まり切らないと思い、本をつくることを提案しました。

そうやって始まったこの本には、瀧瀬さんが、自分に、他人に、言語に、身体に、世界に向かって投げ、そして乱反射して返ってきた言葉たちが収録されています。多面的で変則的にキラキラ光るこの言葉たちを読むと、結局は本にも収まりきらなかったのかもな、と感じます。ただ、収まりきらないまでも、もう一度反射するための足場としてこの本は意味を為すし、魅力を放っていると感じています。

<プロフィール>
2018年よりデザイン・文化人類学を指針にフリーランスでの活動を開始。2018年から2019年にかけてブラジル・サンパウロに滞在し、現地のストリートカルチャーに関するプロジェクトを実施。2021年に映画『街は誰のもの?』を発表。近年はグラフィックデザインを軸に、リサーチ、アートプロジェクトなどを行う。2022年3月に高知県土佐市へ移住し、海外からの技能実習生と地域住民との交流づくりを目指す「わくせいPROJECT」を展開している



「言葉は身体は心は世界」お取り扱い一覧(8月7日以降)

  • bullock books / 栃木県矢板市

  • 本屋lighthouse / 千葉県幕張市

  • twililight / 東京都世田谷区

  • 本屋title / 東京都杉並区

  • SUNNY BOY BOOKS / 東京都目黒区

  • あのう古道具店 / 三重県津市

  • blackbird books / 大阪府豊中市

  • 本と珈琲のあるところ あわい堂 / 島根県出雲市

  • 本と商い ある日、 / 沖縄県うるま市

  • 紙内田ビル_for now / 静岡県富士市


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