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2021/12/12

 今日もまた深夜に目が覚め、健康に眠れないことを嘆いていると、右隣で共に寝んでいる老紳士も目を覚まし、悲しむ私を慰めてくれる。気に病まなくても、そのうちきっと眠れるようになる。そう言って私の肩を宥めるように撫でる。それでも私の悲しみや不安は晴れず、慰められたことでいっそう涙が溢れ、嗚咽すら漏れてくる。

 ふと涙を拭った右手のひらを見ると、親指の付け根の腹の部分に、髪の毛先ほどの小さな蟻が這っている。左手で摘み除けるが、小さな蟻は五匹、十匹と、あとからどんどん皮膚の下から湧いて出てくる。私は悲鳴をあげ、さらにそれを払おうとする。だがついには蟻だけでなく、睫毛ほどの小さな黒い蛇や、同じくらい小さな蜥蜴などが、手のひら全体からうぞうぞと湧き上がってくる。私はその悍ましさから恐慌状態に陥り、叫び声を上げて老紳士にこれをどうにかしてくれ、と泣き叫び訴える。

 彼は、先ほどと同じく、動揺もせずに大丈夫だ、と私を宥める。それを聞く私も、心のどこかでこれが幻視や幻覚の類であり、いずれ落ち着けば無くなる、ということがわかっている。だが、その現象それ自体ではなく、自分の辛く苦しい気持ちを表現するために大袈裟に取り乱して見せているのだ。 
 そのことすら、その老紳士はわかっているようである。

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