2022/03/18
仕事に復帰した私は、私が休んでいる間にチームに加わった影山君と一緒に客先に来ている。客先では社長以下大勢の並ぶ会議が行われており、私は顔馴染みなのでそこに参加し各担当者に挨拶をさせてもらっている。彼らは皆陽気で、私のことをとても気に入っている。
これ以上会議の邪魔をしてはいけないといい加減会議室を出ると、外出先から帰ってきたのであろう一団とすれ違う。先頭にはお世話になっている常務がいて、ずいぶん厳しい顔で歩いているが、私たちとすれ違って会議室に入る間際、とても嬉しそうな明るい笑顔で私たちを見送ってくれる。後に続く彼の部下が、常務があんなに笑顔になるのはあなたが来たときだけですよ、と楽しそうに苦笑いをしてみせる。私が元気にお礼を言うと、部下の一人が明日も来てくれるの?と問う。私は、本当は用事がないけれど、好いてくれているその会社が大好きだったので、来てもいいですか?と全開の笑顔で問い返す。相手も嬉しそうなので、私も嬉しく勢いよく手を振った。顧客にこれだけ愛されている自分が誇らしいような気持ちで、影山君とその会社を後にする。
次の客先まで時間があるので、影山君とお昼を一緒に取ることにする。店を探す道すがら、エスカレーターで影山君が三雲さんの名刺を取り出す。三雲さんは以前同僚だった年配の男性だ。名刺は少し汚れている。なぜ影山君が三雲さんを知っているの?と聞くと、前職からの知り合いだと言う。三雲さんはさっきの客先に来ている競合企業の営業で、そこでちやほやされている私をみて「なぜあいつがここにいるんだ」と影山君に聞いたそうだ。私も担当している客先だと知らなかったらしい。
三雲さんは、同僚だった時から折りに触れ私のことを意識しており、ライバルのように思っていた節がある。私からすると、実績もあるベテランの三雲さんがなぜ私を目の敵にするのか不思議でしょうがなかったが、悪い気はしなかった。
和食のお店で定食を食べている。影山君はぐっすりと眠り込んでしまっている。何度も名前を呼んで、午後からの予定は大丈夫なのかを聞くがちっとも目を覚まさない。テーブルの上にある彼のスマートフォンのホーム画面には、午後三件の会議予定通知が表示されている。開始時間まではわからなかったが、三件も入れているのであれば一つ目は絶対13時からだろう。
私は何度も名前を呼ぶが影山君は目を覚さない。
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