西谷史

★Death Head 日本語版、現在、順次公開中        ★Digital D…

西谷史

★Death Head 日本語版、現在、順次公開中        ★Digital Devil Story 第三巻、日本語版完成       ★Digital Devil Story 第三巻、四章まで、英語に翻訳

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デス・ヘッド Death's Head

終章  あれから一週間が過ぎた。 「ゆかりちゃん、休憩室にいらっしゃいよ。いっしょにお菓子を食べましょう」 「あとで。ママと、お話ししてからね」  伊勢厚生病院のICUに、看護師たちとやりとりするゆかりの元気な声が響いた。  山から救出された加奈子と松井は、ただちにこの病院に収容された。  加奈子の火傷は、見た目よりも症状が重く、また山中で傷口から雑菌が入ったことから意識不明に陥るほどの高い熱を出していた。  だが少しずつ快方に向かい、明日からは一般病棟に移って

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      第七章 死の淵   1    達也が白鷺の群れに襲われ、あの恐ろしい社殿に引き込まれていたころ、加奈子は鷺の鳴き騒ぐ声を聞いて意識を取り戻した。  そして反射的に背筋を伸ばした瞬間、頚椎をしびれるような痛みが襲った。  泣きたくなるのを堪えて、ハンドルに手をついておそるおそる身を起こすと、髪にこびりついていたフロントガラスの破片が、パラパラとこぼれ落ちた。  ボンネットが反りあがり、エンジンが剥きだしになってはいたが、身体にはどこにも傷はなかった。  シートベルトを外すために

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        第六章 Split Personality     1    その週の土曜日、フィリピン沖で発生した台風の接近にともなって、二ヶ月の間紀伊半島を覆い尽くしていた高気圧がついに後退して、西の空には分厚い雨雲が湧き出していた。  赤松母子の葬儀が行われたのは、その日の午後であった。 「同学年の子供が亡くなったのだから、あなたも葬儀に出席したほうがいいわ」と、加奈子は娘に強く勧めたのだが、ゆかりは頑として受けつけなかった。  しかもゆかりは、二人が亡くなった日になにがあったのかをま

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          第五章 妃の髑髏   1    美里が死んでからの二日間を、達也は仕事を休んで妻子のいない一人ぼっちの家ですごした。  最初の日は刑事が来て、当日の美里の様子について、細かいことを聞いていった。そのときはじめて、自分が疑われているのだということに気がついた。  だが疑いはすぐに晴れた。司法解剖された結果、美里の死因は食道静脈瘤の破裂であることがはっきりしたのだ。  それから達也は書斎に閉じこもり、髭もそらずシャワーも浴びず、美里が倒れた日のことをずっと考え続けていた。  塾で

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          第四章 呪いの社    1    中部・関西地方では七月になってから、ほとんど雨が降らなかったため、各地で大規模な旱魃の被害が広がっていた。  それでもこの笠縫町には水量の豊富な農業用水があるところから、七月の中ごろまでは農家の危機感もまだそれほどではなかった。  しかし、八月の初めに水源の朱鷺田川ダムが干あがってしまい、何十年ぶりかの大凶作となる恐れが強まっていた。  その日、加奈子は午前中の仕事を終わって次の訪問先に行くまで、一時間ほど間があいた。  それで隣町にある城跡

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          第三章 濃姫の伝説    1    翌週の金曜日、加奈子は町役場に勤めてから初めての休暇をとった。  残業時間が規定を大きく上まわってしまったため、代休をとるように命じられたのである。  その朝はゆかりを送り出してから、ひさしぶりにのんびりして、たまった新聞を読みはじめた。  東京にいると、東京を中心としたニュースが、日本全国に同じように配信されていると思いがちだが、伊勢の新聞には地元の記事が多いのだという、ごくあたりまえのことに最近気がついた。  その中には仕事に役立つ情報

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          第二章 夢遊病   1   ヘルパーとして働きはじめて、二日目の朝のことである。 「さすがベテランね。昨日訪問してもらったお年寄りは、みんなあなたのことを誉めてたわ。今日の予定表を作っておいたから、頼むわね」  出勤すると、山口小百合が待ちかねたように彼女のところにやってきて、新しい訪問リストを手渡した。  それに目を通していた加奈子は、新しい利用者が並んでいる中に、昨日訪問したばかりの松井満夫の名前があることに気がついた。 「松井さんは毎日訪問するほど状態が悪

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          第一章 伊勢の洋館    1    四月の下旬。  伊勢地方では田植えがまっさかりのとある日曜日、達也は南都スクールで初めての授業を行った。 「新学期になってからの、みなさんの英語のテスト結果は見せてもらった。長文読解力はあるけど、発音がいまいちの人が多いね」  そう言って、達也は教室の中を見回した。  生徒たちは、この春高校に入学したばかりの新一年生である。  外見は東京の高校生と変わらないが、全体として真面目な印象を受ける。  自分のことを言われたと思いこんで頭をかく生徒

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          序 章   1    二〇〇三年の東京は、春先に寒い日が多かったせいか、いつもの年より桜の開花が遅く、三月の末になってようやく蕾がほころびはじめると、人々は待ちかねたように花見にくりだした。  ここ武蔵野市でも、JR吉祥寺駅から井の頭公園へと続く道は一日中ごった返し、午後五時をまわってからは夜桜見物にむかうサラリーマンが加わって、たいへんな人出であった。  自転車に乗って駅前を通りかかった城戸加奈子は、その人込みを避けて車道に降りると、渋滞する車をスイスイと追い抜いて、公園通

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          The Digital Devil Story        第三巻 転生の終焉           第七章 狂乱の後に

            1  十一月六日。  めくれあがったアスファルトの下から赤土の覗く青梅街道を、数万の人の群れが西に向かっていた。  東京拘置所においての公開処刑には無理があり、中島朱実の処刑場は大破壊によって広大な荒れ野と化した、多摩地区の一郭に定められた。  瓦礫の拭い取られた八万平方メートルほどの敷地の中央に、鉄骨によって組みあげられた高さ四メートルほどの巨大な処刑台が、数百名の警官隊に守られて建っていた。  台の中央には、先端に滑車をつけたポールが突っ立っている。  そ

          The Digital Devil Story        第三巻 転生の終焉           第七章 狂乱の後に

          The Digital Devil Story        第三巻 転生の終焉         第六章 受難の法廷          

            1  十月二十二日。  霞が関、午前五時。  まだ夜も明けきっていないというのに、法務省に隣接して建つ最高裁判所のビルを、テレビや新聞の取材クルーと、傍聴券を求める数千の群衆が取り巻いていた。  その中には、中島忠義の姿もあった。  中島朱実に対する特別法廷が今日開かれることは、日本中に知れわたっている。  中島に対する嫌疑の内容もさることながら、対悪魔国家防衛法が適用されるはじめての事件とあって、日本中の耳目はこの裁判に集中していた。  だが治安上の理由―

          The Digital Devil Story        第三巻 転生の終焉         第六章 受難の法廷          

          The Digital Devil Story 第三巻 転生の終焉 第五章 罠

            1  十月十四日。  東京インターナショナル・ホスピタルの正面玄関に立った中島と弓子の頭上には、鱗雲をちりばめた、抜けるように青い秋の空が広がっていた。  渋面で二人を見つめていたボディーガードは、 「飛鳥に旅行中のあなたがたの身の安全について、我々は一切関知しない。よろしいですな?」  中島に念を押すように囁くと、さっさと院内に入ってしまった。 「朱実君……」 「大丈夫だよ、ぼくがついている」  飛鳥行への期待に胸を躍らせながらも、やはり不安を隠せない様

          The Digital Devil Story 第三巻 転生の終焉 第五章 罠

          The Digital Devil Story       第三巻 転生の終焉         第四章 魔性現出

            1  お茶の水、東京インターナショナル・ホスピタル。  弓子が収容されている病室の掛け時計は、午前二時をさしていた。  弓子は軽やかな寝息をたてて、安息の中にあった。  側のベッドに腰かけて、死人のような顔を床に向ける中島の傍には、 「悪魔、渋谷に出現す」 「セイレーン、悪魔を撃退」  と、派手な見出しを掲げた新聞が、乱雑に折りたたまれていた。 (悪魔がまた現れた……歌で撃退するなんて、本当にそんなことができるのか?)  悪夢を見ることを怖れて、脈絡のな

          The Digital Devil Story       第三巻 転生の終焉         第四章 魔性現出

          The Digital Devil Story        第三巻 転生の終焉            第三章 混迷の首都

            1  十月八日。  血糊のついた六つの札束が、みすぼらしいアパートの床の上に、ドサリと投げ出された。 「結構持ってやがったな、あの銀行員」  頬の傷を撫でながら、北園が呟く。  室町はおもむろに札束に腕を伸ばすと、二つを北園に、一つを村井の膝に放り投げて、残りを自分のジャンパーのポケットにねじこんだ。 「……」  村井は黙ってうつむいたまま、手を出そうともしない。 「おまえは人を殺ったわけでもねえ。車を転がしただけで、それだけの分け前をやろうってんだから、

          The Digital Devil Story        第三巻 転生の終焉            第三章 混迷の首都

          The Digital Devil Story  第三巻 転生の終焉 第二章 魔性胎動 

            1  十月三日。  高層ビル街と新宿中央公園にはさまれて、赤土をさらしたままの空き地がある。  三年後、ここには東京都庁が建設されるのだが、この時期はまだ一般に開放されていて、しばしばコンサートが開かれていた。  その空き地に、白の装いをこらした二百名ほどの若者が集まっていた。  あの夜、ライブハウスでセイレーンと出会い、その熱狂的なファンとなった若者達である。白はセイレーンのシンボルカラーでもあった。 「まだかよ」 「本当に来るのかな?」  いまの日本に

          The Digital Devil Story  第三巻 転生の終焉 第二章 魔性胎動 

          The Digital Devil Story        第三巻 転生の終焉          第一章 偽りの聖歌

          1   十月一日。  セトの死が確認されてからすでに一月あまりがたった今も、幾体かの悪魔が日本に降臨したという米空軍情報部〈AIF〉からの情報もあって、首都圏には八時以降の夜間外出禁止令が施行されていた。  新宿駅東口、午前〇時。  煌々と照明の照りはえる駅舎に、おなじみの酔っぱらいの姿はない。  幾名かの自衛隊員達が、駅ビルを守るように歩哨に立っているばかりである。  新宿は悪魔セトの出現地点に近く、セトに従っていた下級悪魔が出現する可能性があるため、自衛隊が出

          The Digital Devil Story        第三巻 転生の終焉          第一章 偽りの聖歌